アニガサキ Ep2 "Cutest Girl"(英語字幕)感想
第 2 話でも目についたのは明示される主語とその変化でした。原文にはなかった言葉、その中でも特に主語が可視化されると、日本語では意識していなかった意味を否が応でも考えさせられます。
ところで今回は細かいネタをアレコレ拾っていたらかなりの数になってしまいました。いくつか項目を削ったのですがそれでもまだ量が多いですね。中身も無駄に盛りすぎかもしれません。次回からもう少し考えないと。
また、放送時に上げた日本語の第 2 話感想は以下のリンクです。
- Rain, blue skies
- Paint this arch
- Kasukasu
- The fans
- I need
- Singular they
- The exact same thing
- Who cares about passion?
- Reach you
- We can create
Rain, blue skies
The rain clears up and reveals blue skies / 青空 雨あがり
The winds of hope blow (Blowing) / 希望の風吹いて
- sky (名)(通例 the ~)空、青空(blue, starry といった形容詞で修飾される場合はしばしば a ... sky, skies となる。しばしば空の広がりを強調する場合に skies となる) (ウィズダム英和辞典 第 3 版)
- 雨上がり (名)雨のやんだあと(のしばらくの間)。 (新明解国語辞典 第 7 版)
第 2 話の英語字幕についてと言いながら、まずオープニング曲の日本語歌詞になるのですが、英訳を見たときにハッとしたので取り上げておきます。
実は私、歌詞の意味を読み取るのが苦手で、フンフン聴いていてもほとんど理解していないことが多いんですよね。フレーズごとの意味はもちろん分かるのですが、そのフレーズをまとまりとしては聴けてないのです。ソラで歌えるほど好きなものでも、その曲が全体で何を言っているのか分かってないこともしばしば。
今回、英訳のおかげでメロディラインや語感を排除した意味だけをまず追えるようになりました。そういった理由でも英語字幕オプションは嬉しかったです。
さて本題に入りましょうか。「青空」と「雨上がり」です。
歌詞では空と雨がこの順番になってますが、因果的・時系列的には英訳のとおり逆ですよね。雨が上がった。だから青空が見える。
でもこうやって並べることで、見る者の目にまず空の青さがぱっと飛び込んできて、あとから「ああ、雨があがったんだな」と気づく、その臨場感を与えられているように思います。
なんと言っても視覚の情報は強いですから、外に出て最初に感じるのは空に広がる青。濡れた地面とそこから上がる湿気でさっきまで雨が降っていたことを覚える。ここで、絵的には青としか情報のなかった空に、雨をもたらしていた雲の白さが加わるのかな。コントラストで青さがより引き立つ感じでしょうか。湿った空気を追いやってくれる風も気持ちよさそうに思えますね。
うーん、日本語で聴いていても私にとってはこれらがバラバラの単語でしかなく、素敵な情景に気づけなかったんですよね。もったいない話です。
Paint this arch
The tiny melodies blend together / 重ねあう 小さなメロディ
(Our Colors)
Let's paint this arch, now / 弧を描いて ほら
It resonates throughout the city / 街中に響くよ
(Reaching for far blue sky!)
同じくオープニングからです。こちらは英訳に少し疑問がありまして……。弧を描くの意味って「アーチのお絵かきをする」じゃないですよね!?
- えが・く【描く】 (動カ五)(4) 物が動いた跡がある形を表す「弧を-・く」 (スーパー大辞林 3.0)
それぞれが奏でる音は小さくても、重なって大きくなったり、干渉しあって素敵な旋律を生んだりしながら、あちこちへ届いていく。その重なった音の "飛んで" いく軌跡が弧のようだ。まずはそういった意味だと思うんですが。
いくつも重なった音でアーチが形作られていて、その音を色に見立てて虹を連想させる歌なので、大きくは間違ってはないと思うのです。
ですが「弧を描く」とは半分決まりきった表現です。主語が曖昧でも、それだけで何かが動く様子・山なりになって飛んでいく様子をイメージさせます。
ここでのアーチは、音が飛んで行った結果として出来上がるモノだと思うんですよね。気がついたら出ていた。虹ってそんな感じですよね。
アーチ(橋)を目的として「作ろう(架けよう)」と言うのはもう少し後です。飛んでいく動きや自然に出来上がる感じを落としてしまって、後のパートと同じ内容を繰り返すのは、いささかもったいないと思うのですよ。
あとここでは resonate の主語が it なのも気になるところです。it は "this arch" を示しているか、またはただ形式的なものですね。いずれでも意味としてはおかしくないのですが、日本語と対比させると違和感が残るように思います。
日本語歌詞で「響く」の主語は「メロディ」ですよね? そしてその響く状態を表す文として「弧を描いて」が挿入されていると解釈したんですが合ってますか。メロディが、弧を描きながら、街中に響く。
英訳で melodies と resonate がバラバラに見えるのは、主語の不一致も原因の一つですけれど、間に入っている "Let's" が問題に思えるんですよね。どこからきたんだろう。「弧を描いて」の「て」を取り違えているような気がします?
- て
[一](接助)(四)どんな状態で、その動作・作用が行われるかを表わす。「歩い-通う/目を開い-よく見ろ/喜んで協力する」
[二]〔終助詞的に〕(三)「てください・てくれ」の意で、親しい間柄の相手に気軽にものを頼むときに用いられる表現。「僕にも見せ-/ちょっと待っ-/また来-ね/そんなにおこらないでよ」 (新明解国語辞典 第 7 版)
Kasukasu
歩夢 : Then I guess we should call you "Kasukasu"! / だったら「かすかす」だね
かすみ : No, not Kasukasu! It's Kasumin! / かすかすじゃなくて、かすみんです!
歩夢 : Well, your name is Kasumi Nakasu, so I thought Kasukasu was fitting. / 中須かすみだから、かすかすかなあって
今回も「名・性」順の弊害が少し出てましたね。「かすみ・なかす」となってしまった時、「なかすかすみだから」の「だから」がどこまで通じるものなんでしょう。一部ずつを抜き出した形で(かつ、それがたまたま同じ語で)順不同になっているから、大部分では意味を損なってませんが。ふむ。
訳うんぬんは一旦置いておいて、あだ名そのものに関しても難しいなとは思います。
「かすかす」って、略称を作る際に一般的には切り抜くことのない場所から持ってきていますよね。彼女の場合には語呂が悪くなるのでしませんが、姓名それぞれから取ってくるなら頭から 1~2 文字が第一選択肢になるはず。それを、特定の意味を持つ語が並んでいたからと、真ん中からまとめて抜き出したところに命名の意地の悪さがあるように思うんです。この辺りのニュアンスは日本語話者以外に通じるんでしょうか。
まあそれ以前に、「かすみ」という名前は可憐で可愛らしいのに、一字抜いて「かす」にすると一気にイメージが悪くなる嫌ぁな感じとかはタブン分かりにくいと思います。さらにそれを二つ繰り返したときの、リズムだけはやたら良くなるのに、全く喜べない意味のままなところだとか。
ええと、ですね。つまり早い話が、何を述べたいのかと言いますと、「かすみん」って可愛い呼び名ですね!
The fans
かすみ : Think about all of the fans! / ちゃんとファンのみんなを思い浮かべて
歩夢 : Fans? / ファン……
歩夢が表現に四苦八苦する重要なシーンです。ここでの the の有り無しはやはり目に付きますよね。嬉しい表現の違いです。*1
かすみんからのアドバイスは "the fans" と具体性を帯びているのに、聞き返した歩夢は the 無しの "Fans" で、一般的な名詞として、つまり漠然としか考えられてません。アイドルには「ファンというもの」が付き物だ。現時点で歩夢の認識はその程度しかないのが見えます。
ファンに向かってパフォーマンスするのがアイドルだとは分かっていても、その「ファンというもの」をぼんやりとしか捉えられていないのでは、何をしていいものやら。迷走するのも道理です。彼女の fans に the が付くのは果林さんに助言を貰ってからでしたね。
I need
歩夢 : I'm... I'm Ayumu, bun... / あ……歩夢だぴょん
かすみ : You need to be louder! One more time! / 声が小さい。もう一回
歩夢 : I'm Ayumu, bun! / 歩夢だぴょん
かすみ : You need to actually believe you're a bunny! / もっとうさぴょんになりきって
歩夢 : I'm a bunny, bun, bun! / うさぴょんだぴょん!
かすみ : I need more feeling in those buns! / ぴょんに気持ちがこもってない!
歩夢 : Bun! / ぴょーん!
かすみんのセリフ訳にクスッときました。
最初は you need という、ちゃんと相手の立場を思ってのアドバイスだったのに、最後には I need 「その程度では、私は認めない」(直訳は「私はその "ぴょん" にもっと気持ちが必要だ」)と主体が自分の方に移っちゃってますね。
スパルタ指導にだんだん興が乗ってきた感じが表れていませんか。
Singular they
かすみ : Nothing is more important to a school idol than everyone who supports them. / スクールアイドルにとって、応援してくれるみんなは一番大切なんですから
"them" が受けるのは "a school idol" でしょうか。singular they ですね。
これはあくまで私個人の意見ですが、基本的に女の子しか出てこないのがラブライブ!シリーズなのですから、her で受けちゃって良かったような気もします。(以下のツイートの画像はスクフェスのサイドストーリーより)
'his/her' や 'their' の形を取らずに、'her' で受けているところがラブライブ!ですねっ。 pic.twitter.com/jaN1BACbqI
— よたまも (@yotamamo) 2020年8月9日
The exact same thing
かすみ : At this rate, the fans won't see how cute you are! / そんなんじゃあ、ファンのみんなに可愛いは届きませんよ
(略)
かすみ : Am I doing the exact same thing? / かすみん、同じことしてる?
せつ菜 : We won't to be able to fully express our love to the fans with a performance like this! / こんなパフォーマンスでは、ファンのみんなに大好きな気持ちは届きませんよ!
かすみんが気づきを得るシーン。
軽い気持ちで歩夢に向けた言葉が、以前せつ菜に言われて自分が反発したものと全く同じだったことで、彼女はハッとなったと思うのですよ。ここは英訳でも二人のセリフを揃えてほしかったところです。
Who cares about passion?
かすみ : This isn't cute at all! Who cares about passion? / こんなの全然可愛くないです! 熱いとかじゃなくって
かすみ : I want to concentrate on being cute! / かすみんは可愛い感じでやりたいんです!
日本語の感想記事でも取り上げた 場面です。売り言葉に買い言葉で「こんな」を返すとは、ずいぶん攻撃的な言葉遣いをしているなと思ってましたが、英訳もやっぱり強烈でしたね。
直訳だと「誰が "熱さ" を気にするんですか」くらいでしょうか。反語ですよ反語。「=誰も気にかけないですよ」とはまたキツイ物言いです。
そうですね。少し不満を言わせていただくなら、passion はオープニングで使われる大事な意味を持つ単語なので、かすみんの反論とその元になったせつ菜のセリフの訳には用いないほうが良かったんじゃないかと思います。原文は「熱い」や「熱量」となってても、好きなものに対する情熱とは少し違う意味合いで使われていますから。全く同じ語を歌ってる本人に否定させちゃだめかなと。
ともかく、かすみちゃんにとってもせつ菜にとっても、ここは重要な意味をもつシーンでした。どちらも譲れないモノを持っていて激しくやりあったから、その後のかすみちゃんの気付きやせつ菜の苦悩が生まれたんですよね。物別れに終わり旧同好会は気まずくなっちゃいましたから、この場面だけを取り上げて是とはできません。けれど、絶対に譲れないナニカをめぐって激しく口論できる二人は眩しくも羨ましくもあるなと、あらためてそう思いました。
Reach you
Reach you! Reach you! / 届け! 届け!
To the farthest ends of the Earth / 地球の果ての果てまで
"reach you"。多分素直な訳だと思うんですけど、いいなあと。
reach には到着する・差し出す・届く・達するなどいろいろな意味がありますが、基礎になるイメージは「腕を伸ばす」でよかったはず。自分が居て、対象となるものがあって、そこに向かってぐっと腕を伸ばして、触れたり掴んだりする。そんな感じで私は理解してます。
動詞のフォーカスは対象物に触れるところに当てられてるのですけれども、元の位置や、そこから始まる移動的な動きにも意味が残る単語なんですよね。物を掴む場合なら自分とモノがそのまま腕でつながってますし、物理的に離れてる場合の reach でも、到達するまでの行程に出発点からのつながりが見えます。原文の日本語「届く」も似たような雰囲気を持ってますよね。
ここの reach は、「届け!」に込められた発信元のおもいが感じられる好きな訳です。*2
We can create
The best wonderland in the whole wide world. / 世界で一番のワンダーランド
That's where I thought I was going. / そんな場所に行けると思ってたのに
A place where all kinds of cute and cool people can be together... / いろんな可愛いもカッコイイも一緒にいられる
If we can actually create a place like that... / そんな場所が本当に作れるなら
That'll definitely be the best wonderland in the whole wide world! / それは絶対、世界で一番のワンダーランドです
第 2 話は最初と最後のモノローグの対比で締めたいと思います。
かすみんは最初、理想の場所がどこかにあるものだと信じていて、そこに向かおうとしていました。でもそれは間違いで、理想の場所とは作り出すものなのだと気づけたんですよね。「行ける」から「作れる」への変化は 日本語の感想記事でも触れました が、英語にした時もっと目を引くのは主語の違いです。
期待していたとおり "I" が "we" に変わっていましたね! ええ、第 2 話はこれでもう大満足です。