アニガサキ Ep11 "Everyone's Dream, My Dream"(英語字幕)感想

歩夢の重い気持ちをアレコレ考えていたら最後のセリフ 3 行だけで結構な量のテキストになってました。これでは英訳に対する感想というより、先の展開(第 12 話)を知った上でのこのエピソードの振り返りですね。趣旨からはちょっと外れてしまっているので反省しています。

I am the...

出典:アニメ「ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会」第11話

菜々 : Well, I am the student council president. / 生徒会長たるもの当然です

今週の菜々さんはたくさん取り上げたいところがあったのですが、涙を飲んで数を絞りました。

まずこちら。ただ単にとても好きな訳です。原文も無理をして大きく構えている感じでしたが、英訳はそれ以上に堂々と(しようと)してますね。これぐらいじゃないとマンモス校の生徒会長兼、正体を明かさない人気スクールアイドルなんて務まらないのでしょうか。頑張れせつ菜!

pretty fun

出典:アニメ「ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会」第11話

彼方  : But the idea of a Kasumin Box is pretty fun. / でも、かすみん Box ってアイデアは面白いよね

せつ菜 : Yes, it's really cute. / はい、とても可愛いです

  • pretty [副] 《砕けて》かなり、相当に;大いに、非常に (ウィズダム英和辞典 第 3 版)

もう一つは部室のシーンから。かすみん Box はたしかに愛らしかったですよね。

ですが彼方ちゃんのコメントに対する返しはあまりにもチグハグで、少々心配になってしまったやり取りです。せつ菜はそれ程までにかわいい人形に目を奪われていたのでしょうが――英訳ではうまく整えてあって、その手腕に唸りました。

原文で彼方ちゃんの言う「〜は面白いよね」はフラットな表現です。面白いという形容の程度については高いも低いもありません。だからストレートに訳すなら "〜 is fun" と、主語を補語 fun と直接結べばいい。fun を修飾する副詞は別段必要ないはずです。

多分わざわざ "pretty" を加えてあるんですよね。くだけた会話ですから、訳すに際して「面白い」の程度を高く見積もってもさほども意味は変わりません。多少大袈裟気味に表現するのは普通のことですから。それよりもギミックが一つ加わることのほうが大きいのでしょう。

これ、せつ菜は最後の "fun" が耳に入ってませんよね。

  • The idea of a Kasumin Box is pretty.
  • pretty [形] 1 〈女性・子供などが〉かわいい、きれいな (ウィズダム英和辞典 第 3 版)

早合点してこう聞いていたなら彼女が "cute" と返すのも自然です。「かわいい」で頭がいっぱいで、途中まで聞いたところで彼方ちゃんのセリフを勝手に完成させちゃったんですね。

pretty が副詞としても形容詞としてもはたらくことができ、またそれが全く違った意味になるところがミソでしょう。スマートな訳にやられました。

Where you'd like to see

出典:アニメ「ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会」第11話

"Kasumin is looking for the perfect spot!" / かすみんに ぴったりの会場を 探しています!
"Please tell Kasumin where you'd like to see her perform" / よかったら教えてね かすみんのライブで やってほしいことも
"Accepting requests!!" / 大募集!!

「やってほしいことも/教えて」の訳に "tell Kasumin where you'd ~" が当てられていて、ちょっと首を傾げてしまった箇所です。でもこれくらいなら目くじらを立てるようなモノじゃないですか。

しかし、そうやって引っかかったおかげでこの文言を見返して、気づいたことがありました。というか見逃していたんですよね。本放送の感想で触れてまでいるのに、なんで気づかなかったんだろう。

英訳からは外れますがお付き合いください。

Box に張りつけられたかすみんのコメントは、広く意見を集めるものとして適切ではありませんでしたね。ここにはアイデアが欲しいという自分の要求だけを書き連ねてあるだけです。読んでもそれが何のためのものなのかさっぱり分かりません。把握できるのは「何かの」ライブに関して意見が欲しいことくらいでしょうか。それも「かすみん」を知らない人からすればどう意見していいものやら、です。リクエストが集まらないのも当然ですね。

出典:アニメ「ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会」第11話

"We're getting ready to do a School Idol Festival! / スクールアイドル フェスティバル準備中
Tell us what kind of festival you'd like to see!" / みんなが見てみたい フェスを教えてね!

その点、愛さんが書き足したコピーはちゃんと情報が揃っています。「スクールアイドル」が主体で「フェス」を近々やるつもりなのが知れますし、そこでやるアイデアを見に来てくれる人たちに募っているのも分かります。事前知識がない人、ニジガクに同好会があることどころか世にスクールアイドルという存在がいることさえ知らない人が見ても、おおよそ理解できる書き方になっています。集まる声の数に差も出るというものでしょう。

愛さんはこんなところでも優秀だなあ。私としては――おもいは強く、ぱっと行動に移すも、詰めがちょっとばかり残念なかすみんを応援したくなりますけれども。笑

出典:アニメ「ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会」第11話

璃奈 : Oh, right. / そっか
璃奈 : It's summer vacation right now. / 今は夏休み
璃奈 : We need everyone to find out about this. / みんなに知ってもらわなきゃ

脱線ついでにもう一人の優秀さんについてもコメントしておきます。かすみん Box についてのやり取りを聞いて、すぐにイベントの周知が大事だと気付ける彼女も仕事ができますよね。議論している計画の詰めも重要ですが、やるとなったら知ってもらわないことには始まりませんから。

思い返せばアバン明けの打ち合わせのシーンでも、欠けていた共有すべき情報「いつまでに」を確認していたのも璃奈ちゃんです。(ここは英訳を見て、そう言えば "Five Ws"(5W1H)の一つだ!と、ちょっと嬉しくなりました)

璃奈 : When does this all need to be done? / いつまでに決めればいいのかな?

派手な意見を出したり、中心になって皆んなを引っ張っていったりするような彼女ではありません。ですが全体を俯瞰できて、足りないものを把握し、自分のできることで積極的にサポートしようとする姿には惹かれるものがあります。

Play (the) piano

出典:アニメ「ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会」第11話

せつ菜 : Oh! Yu-san was playing piano in the music room, so we had a little chat. / ああ。侑さんが音楽室でピアノを弾いてらしたので、少しお話ししました。

歩夢  : Yu-chan was playing the piano? / ゆうちゃんが、ピアノ?

  • play [動] (他) 2 〈人が〉〈楽器〉を演奏する、吹く、弾く (play + (the) + 楽器 playの後に続く楽器の前に置かれるtheは時に省略されるが、その傾向は(主に米)、特に演奏者やその関係者に強く見られる、また文脈によってa, one's, thisなどが用いられることもある) (ウィズダム英和辞典 第 3 版)

さて、ここからは本エピソードの本命さんにご登場いただきましょう。まずはせつ菜とのやりとりから。

楽器を演奏するときには the を付けなさいと学校で習ったのを覚えています。が、アメリカ英語では付けない場合も多々あるんですよね。最近知りました。

私が聞いたのはとある(日本語が話せる)ネイティブがしていた話です。明確な基準はないが、the を付ける場合と付けない場合とではニュアンスは確かに変わってくるとのことでした。ピアノやギターのような一般的な楽器で付けない傾向が強くなり、そこにわざわざ the を付けると少し構えた感じになるとか。日常的な演奏の描写には "play piano"。"play the piano" とするのは、たとえば職業を表すときだそうです。

ここの英訳も二人のセリフで使い分けてありましたね。

せつ菜が侑ちゃんのピアノを聞くのは 2 回目です。以前よりずっとうまくなっているのを聞けば、彼女が普段から練習しているのがうかがい知れます。となればせつ菜にとって侑さんがビアノを弾いていたのは普通のこと。それを表現するとき、piano には the が付きませんね。

一方歩夢にしてみれば、これっぽっちも知らなかった事実です。ピアノそのものに対しても驚きですし、それ以上に「私に隠していた」事実に衝撃を受けることでしょう。「ピアノなんて!?」とでも言いたくなる場面ですよね。だから the が付くと、なるほど。

これは 1 年前の私だったら多分気づけなかったニュアンスの違いです。私は要領が悪く、自分の出来なさかげんにうんざりすることも多いのです。ですがこうして分かること・できることが目に見える形で現れてくれると嬉しいですね。多少なりとも勉強をしている甲斐があるのだなと安心できます。

Yu-chan

出典:アニメ「ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会」第11話

"Yu-chan" / ゆうちゃん
"Can you come over right now? I want to tell you something" / いまから来れる? 伝えたいことがあ……

歩夢のスマホでは、幼馴染の登録名がひらがなで「ゆうちゃん」になってるんですよね。見たときに一発で好きになった描写です。

彼女がお隣さんと初めて出会ったのは幼少期です。文字を理解する前か、読み書きができたとしてもひらがなだけの頃*1 だと思われますから、歩夢は侑ちゃんを「ゆうちゃん」という音でしか認識していなかったはずなんですよね。

一度定まった認識はそうそう変わるものじゃありません。大きくなって漢字を覚え「高咲侑」または「侑」の字に意味があると知ってからも、「ゆうちゃん」はやっぱり「ゆうちゃん」なのでしょう。幼馴染を思うとき、彼女の中では音だけがまず意味を持ち、漢字とは結びつかないんだろうなと想像します。

ですが、かわいい物を「子供っぽい」「そういうのは卒業」と(対外的には)切り捨てていた彼女のことです。子供っぽさの残るひらがなを恥じて、どこかで漢字の「侑ちゃん」に意識を改めるタイミングがあったとしてもいいのでしょうが――。

歩夢は二人の関係をとても大事にしていました。昔からずっと一緒でこれからも変わらず幼馴染とあり続けると信じて疑っていませんでしたね。そんな彼女なら、「昔(から)」をことさら大切に思い、変えずに保ち続けているのは腑に落ちる表現じゃないかなと思います。*2

さて、当然ですが英語は "Yu-chan" です。表記の変えようがないんですよね。固有名詞は言い換えも不可能ですし。

ラテン文字ニュートラル以外のニュアンスを出すなら、大文字にするなり一文字ずつスペースを空けるなり、やりようがないわけじゃないんですけど、どれも強調になってしまいます。漢字をひらがなに変えて柔らかさを出すような芸当は難しいみたいです。

翻訳はやりようによってはとても細かいニュアンスまで表せます。その技術・手腕に舌を巻くことも多いのですが、中にはこうした言葉の作りの違いで落ちてしまうところもできてしまいます。大意は間違いなく変換できているのだから問題ないと眼をつぶることもできますが、その落ちてしまった些細な部分が自分の気に入っている箇所だと、やはり残念に思いますね。

See dream through

出典:アニメ「ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会」第11話

歩夢 : You said you'd see my dream through with me... / 私の夢を一緒に見てくれるって(言ったじゃない)

歩夢 : But will you see this dream through with me? / 私の夢を、一緒に見てくれる?

侑  : Of course, I will! / もちろん (第 1 話より)

  • 夢 (二) 実際にはありそうにも思われないが、万一実現すればいいなあと思っている(いた)事柄。 (新明解国語辞典 第七版)
  • see A through (2) A〈困難なこと〉を最後までやり抜く (ウィズダム英和辞典 第 3 版)

あのとき言質を取ったんだよと言う歩夢さん。たしかに第 1 話で(一言一句違わぬ)約束をしていました。

「夢」とは実現がまず不可能、もしくは困難である事柄に使われます。ここでは「夢を見る」が「追う」と同じ意味でしょうから、約束は「実現するまで」を指すのでしょう。英訳も through が使われていて「最後まで」の意味を伴っていました。

さて問題は、どの時点で夢が実現したと見なすのか。

歩夢が始めたかったのは、もう子供っぽいからと卒業していたはずのことです。その世界に入って行くには二の足を踏んだことでしょう。そこで「自分に素直になりたい」から「見ててほしい」と、侑ちゃんに助力を頼んでやっと踏み出したのでした。

その踏み出した一歩目に実現困難性を見ていたのなら、軌道に乗りだした時点でもう大丈夫だと言えそうなのですが……。

歩夢は未だ「夢はこれからなのに」と言うんですよね。(第 12 話)これは始める時に明確なゴールを定めなかったためですね。どこへ向かって走っているか分かっていないから。

スクールアイドルは何をやってもいい場所です。予め定められた目的はなく、進む先を自分で決める必要があります。*3 なのに歩夢にあるのは表現したいという思いだけで、それをどういう形で表すかのビジョンを持てていなかった。だから今までの打ち合わせでもフワフワした意見しか出てこなかったんですね。

次のエピソードで答え合わせがなされましたが、彼女に必要なのはまずファンの声に応えることです。それができて初めて彼女の夢が叶ったと言えます。(そして走り続ける夢が新たにできることでしょう)

つまりは、ファンの娘たちの声に応えられるようになるまで、心細いからゆうちゃんには見ててほしいということに――あれ? 応えてしまうと、自分の中のゆうちゃんが無くなってしまいそうって話ではありませんでしたか。彼女はここに矛盾をはらんでいるんですね。難しいなあ。

この後の話の流れを知った上で英訳の "through" を目にして、そんなことを考えたのでした。

By Ayumu's side

歩夢 : (You said) That you'd stay by my side... / ずっと隣りにいてくれるって、言ったじゃない

侑  : I’ll always be by your side, Ayumu! / いつだって私は、歩夢の隣りにいるよ (第 1 話より)

  • ずっと (副) (二) 物事が、ある時点や地点から、とぎれる(途中でとどまる)ことなく続いている様子。
  • いつ (代) ある事が行われる(事象が認められる)時点・時期について、はっきりと特定できないことを表わす。〔疑問の意にも用いられる〕
  • だって [二] (副助) (三) 〔疑問(最小単位)を表わす語について〕例外なくそうであることを表わす。 (新明解国語辞典 第七版)

続いて約束の後半です。前項の前半部とは違い、こっちは文言が少し違っているんですよね。原文の「ずっと」と「いつだって」の違いをどう取りますか。

「ずっと」は途切れのない様子です。特定期間の始まりから終わりまですべてが埋まっている感じを直接的に描写しています。

一方で侑ちゃんの言っていた「いつだって」は、期間中のどのタイミングを参照しても "そう" であることを表します。「どのタイミングを参照しても」なので結局は「期間中すべて」と同値ですね。しかし、この参照しにいくワンクッションは条件付けと親和性が高く、そこに意味があるように思います。つまり「いつだって……隣にいる」には、「歩夢が必要なときは」"when Ayumu is in need" の条件節が付くように思うんですよね。必要に応じて手を差し伸べると言っているだけで、四六時中一緒を指すわけではないように私には聞こえますが、どうでしょう。

歩夢が「ずっと」と言い換えてそのニュアンスを消したのは、このときの彼女の気持ちをよく表しているように思います。今のままであり続けてほしいのですから、それが解消されるような要素は排除しますよね。お互いが離れていってしまうことを恐れたために飛び出した詭弁か、意図的な曲解と言えるでしょう。

  • stay [動] (自) 1 [stay + [副] ] とどまる、いる 2 [stay C] Cのままでいる、C〈状態〉である (ウィズダム英和辞典 第 3 版)

英語は "by your/my side"(歩夢の隣に)はそのままに、"be" から "stay"(いる) へ変化させているのがやっぱりいいなと思います。

be 動詞は主語と補語がイコールで結ばれるだけ。stay はそれに加えて、元の位置や状態から変化をしないニュアンスが含まれます。停滞を願った歩夢が発するのにふさわしい単語ですよね。

原文にしても英訳にしても、言葉のすり替えが絶妙だなと感じたセリフでした。

Belong to

出典:アニメ「ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会」第11話

歩夢 : Please just belong to me. / 私だけのゆうちゃんでいて

  • belong [動] [自] (2) [SV to O] 〈物などが〉〈人〉の所有物である、…のものである (3) [SV to O] 〈人が〉〈団体・組織など〉に所属する、…の一員である;〈物が〉…に属する (ジーニアス英和辞典 第 5 版)

さらに続けてもう一つ。一連のセリフとそれに続く彼女の行動は強烈でしたよね。本放送時も圧倒され、ここばかりに引っ張られて他の箇所の内容を噛み砕く作業になかなか入れなかったのを覚えています。

今回英訳を見てその衝撃再びでした。Blu-ray を見終えてから、もうずっとこればかりを考えていますよ。頭の中でセリフがリフレインしています。

"belong" って「人対人」でも使うんですね!? 被所有を表すこの動詞は、物を主語に取りそのオーナーが誰なのか、または人を取りどのグループに所属しているのかを表すものだとばかり思っていましたよ。

私の中での belong のイメージは帰属関係「xA」です。"x belongs to A" と書いたとき、to の目的語 A は主語 x の上位にあるのだと理解していました。この 2 つは概念レベルが違うものだと。対等であるべき人同士で使うこともあるのか……。

多分ですけど、"You belong to me" だとかなり傲慢だし、逆に "I belong to you" だと卑屈*4 に聞こえるはずですよね。まあ、たしかに原文もそういった意味合いのことを述べてはいますけれども。それでも凄いなあ。

これを書いている今も歩夢の大胆さにドキドキしてます。*5

*1:第 1 話で幼稚園の話題が出ていましたから、少なくとも就学以前ですね。

*2:ですから、二人の関係が刷新された 12 話以降で漢字になっていたとしても驚きはしません。ただ別々の道を歩き始めても二人が一緒なのには変わりませんから、やっぱり昔を大事にしてひらがなのままで居てくれたほうが私個人としては好みですが。

*3:このあたりは愛さんも始める時に悩んでいましたね。

*4:いえ、こっちはそうでもないですか。場合によってはロマンチックな感じかもしれません。

*5:belonging [名] (2) [U] 親密な間柄、切っても切れない縁 (ジーニアス英和辞典 第 5 版)/よく調べてみたら派生語 belonging には「所有物」のほかに「親密な間柄」の意味があるのを見つけました。こちらが人と人との関係に使われるということは、belong にも少なからず同じ意味を見出して、いいのかな。