花火と鬼ごっこ <ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会 第 10 話「夏、はじまる。」感想>

前回までで個人回が一通り終わり、物語が動き始めましたね。個別では、やりたいことを見つけて前へ進みだした侑ちゃんと、足踏みをしてるらしき歩夢にフォーカスが当たっていて、第 1 話(および 2 話)の続きの形になっているのでしょうか。幼馴染二人の意識のズレが心苦しくも、これからの展開が気になるところです。

ところでエピソードタイトルに句点が付いてるの、リズム感があっていいですね。ああ夏が始まるんだなあって感じがします。(実季節とは逆転してますけどね)「始まる」が開いてあるのも個人的にポイントが高い。

意識のズレ

出典:アニメ「ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会」第10話

そういえば、小学校の時の……

同じ場所に行って、同じものを見て、同じことをやって、同じように笑って。幼馴染と一緒に過ごしてきた時間って大事だと思うんですよ。*1 でもずっと一緒にいて同じことを経験してきていても、同じように考えるとは限りません。

たとえばせつ菜のライブを偶然見かけて惹かれたのは一緒でも、歩夢は自分で表現する手段としてスクールアイドルを見ていたのに対し、侑ちゃんはファンの立場で応援したいというスタンスでした。

二人でスクールアイドルの世界に入ってからもそういった違いはあるようで――。

出典:アニメ「ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会」第10話

最後のシーンが二人の違いをそのまま象徴してますね。

まず並んで座って話す場面。歩夢が同好会に入ったときの昔話を振ると、そこから侑ちゃんは今までの二人だけの話じゃなく、みんなとこれからどうしたいかの話に発展させます。歩夢はその展開に付いていけてない感じかな。

ここでは並んで同じ方向を向いているはずなのに、視線の向きが違ってるんですよね。歩夢の意識が下・過去に向いたままなのに、侑ちゃんは上・未来を見ている。

出典:アニメ「ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会」第10話

横からのアップでも画面内の視線の余白が違っていて、見据える先に二人の差を感じさせます。歩夢はすぐ隣の侑ちゃんしか見えてないけど、その侑ちゃんはずっと先を見てるんですよね。

その後、他のみんなが集まってきてからもそうです。

スクールアイドル・フェスティバルの提案をするために、侑ちゃんは立ち上がって熱い演説をかましていました。座っていたときには歩夢と並んでいた侑ちゃんの目線が、ここで立ったことで一段上がり、他の 8 人と同じ高さになりました。一方歩夢は座っているので、最後まで一人低いままです。

出典:アニメ「ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会」第10話

意識の差、ステップアップできているかどうかの差が、そのまま視点の高さに現れているように思います。

ライブでどんなことをしたいか、A パートで話していたことを覚えているでしょうか。みんなが具体的な内容だったりビジョンだったりを示す中で、歩夢だけは 立つだけで胸が一杯になっちゃいそう と何も定まってませんでした。*2 最後のこのシーンでも彼女が座ったままで、他のスクールアイドル 8 人より低い位置なのは納得です。

出典:アニメ「ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会」第10話

そして実は侑ちゃんも最初の時点では みんなのステージが見られるだけでときめいちゃう と、まだ受動的でした。

あんなライブが良い! 歓声の中で(略)みんなの心が一つになるような。

が、音楽室でのせつ菜との対話や、ダイバーフェスの回想を経て、やりたいことが定まったようです。

これで侑ちゃんは立ち上がってみんなと視点の高さが合ったんですよね。並び追いついた。

置いてきぼり

出典:アニメ「ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会」第10話

この侑ちゃんは歩夢から見た姿ですね。下から見上げる形で、頭が少し切れたところからゆっくりと上にパン。小さいはずの侑ちゃんの姿がとても大きく見えます。

座ったままの歩夢は完全に置いてきぼりを食らってますね。

思えば歩夢は同好会再始動のときの会議(第 4 話)でも、かわいいのが良い としか言ってませんでした。あれ? そこから進んでない? 他のメンバーがライブをやったり、それを踏まえた上での方針を出したりしている中で、これは少し寂しいかもしれません。

彼女が今までに自ら前に進んだのは、侑ちゃんと二人でスクールアイドルを始めたことと(第 1 話)、PV で自分のアピールのしかたを少し理解したこと(第 2 話)。

まず、スクールアイドルという夢へ飛び込んだのは、侑ちゃんが隣に居てくれるから……というより、侑ちゃんが 誰かの夢を応援できたら(良かったのに) と言ったことに便乗した形でしたね。PV 作成でも漠然とした「まだ見ぬファン」に向けてでは上手くいかず、侑ちゃんという超特定の人を意識していました。

新しいことを始めるのに支えてくれる人が居るのは心強いですし、伝える相手を具体的に想像することは、おもいを表現するのにとても良い手段でしょう。だから彼女の滑り出しは悪くなかったと思うんですよ。

ですが幼馴染と歩き出したそこからは、歩みが止まってしまっているようですね。

PV は確かに良くできていました。*3 そしてニジガク同好会の知名度も上がってきています。だから第 6 話で色葉ちゃんたちに声を掛けられていたように、歩夢に期待するファンももっと付き始めているはずです。もう隣にいる幼馴染だけじゃなく、一般のファンに目を向けないといけない時期だと思うんですが……。

歩夢は未だに「二人で居ること、二人でやること」にしがみついたままのようですね。

歩夢ちゃん。あなたは、大好きな侑ちゃんと一緒に何かがやれればそれで満足だったの? スクールアイドルは予備校へ通うはずだった代わり? それよりもやりたいコトがあったんじゃなかったっけ?

私の夢を、一緒に見てくれる? (第 1 話より)

そう、侑ちゃんを誘うときにこう言っていました。確かに自分の夢があったはずです。その原点を思い出せるんでしょうか。

手段と目的の混同はよくある話だと思いますが、彼女の場合、手段もある意味では目的たり得るので複雑ですね。

曇り案件

出典:アニメ「ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会」第10話

例のシーンについては解釈に悩んでいます。

状況は、せつ菜がつまづいて転びそうになったところを侑ちゃんが支えた。これだけならスクールアイドルをサポートする侑ちゃんの立場を表すメタファーでいいと思ったんです。侑ちゃんは歩夢だけじゃなく、他の子たちも同じように支えるようになっている。ある意味当たり前のその事実に歩夢が気づいたのかな。

……と思ったんですが。見返してみたら、歩夢はつまづいた瞬間を見ておらず、目撃したのは抱き合ってるところからでしたか。それだと全く意味合いが違ってきますね。(ただ位置関係はここでも歩夢が下で、二人を見上げる形にはなってます)

公式サイトのあらすじも、目撃した場面が少し違う感じに書かれているので、さらに判断に困るところでして。

(略)ピアノを弾いていた侑の元に訪れたせつ菜から、いつか侑さんの大好きを応援させてほしい、と励まされる。そこへ偶然通りかかった歩夢は笑顔で話す2人に声をかけることができなかった。 (公式サイト(ストーリー) より)

出典:アニメ「ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会」第10話

最後の侑ちゃんとせつ菜ちゃんの目配せも絡むでしょうから、私の知らない侑ちゃんってあたりでしょうが、うーん。とりあえず保留でお願いできますか。

侑の咎

ここまで歩夢だけが悪いような書き方をしてしまいましたが、それでは不公平なので少しくらいは侑ちゃんも責めておきましょうか。

二人の問題は、歩夢が侑ちゃんべったりなのに対して、侑ちゃんから見たスクールアイドルとしての歩夢が 1/9 にしかならない非対称性にあると思います。侑ちゃんはそれが分かってない!

いつだって私は歩夢の隣に居るよ って答えたんですからね? 自分のやりたい事も結構ですけど、もっと幼馴染のことも見てあげてくださいな。

出典:アニメ「ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会」第1話

垣根をなくす

アイドルじゃない私だからできる事もあるって、そう思うから。

さて、ただ「ときめく」としか言ってこなかった侑ちゃんに、やりたい事が見つかりましたね。スクールアイドルもファンも全部の垣根を越えたお祭りみたいなライブとは、またすごい事を考えるものです。

本人も言うように、あくまで観客の視点を持っている 侑ちゃんだから出てくる発想ですね。また、立場としては演者寄りで、積極的に携わりたいと思っているから、友人の「お手伝い」をしていただけのひふみ(や、よいつむ)たちとも違うんだと思います。

ところで話が少し戻るのですが、B パート冒頭でランニングが鬼ごっこに変わったのは唐突だと感じませんでしたか。私は頭の中にハテナマークが浮かびました。合宿の主目的であるはずの場面が(いくら負荷が高いものだとしても)遊びになってしまったのを残念に思ったんです。

でも最後侑ちゃんの演説でその意味が分かったような気がします。演者と観客の垣根をなくす。そういうことでしょうか。

合宿のトレーニングはスクールアイドルの 9 人だけがすることです。侑ちゃんはサポーターなので、自分は走らずにタイムの管理らしきことをやっていましたね。そう、ランニングではアイドル 9 人とファン 1 人の区別がはっきりとなされていました。

それが鬼ごっこに変わったことで、同じ「走る」でも両者の区別なく楽しめるものになった。みんな堪能してましたよね。

侑ちゃんがスクールアイドル・フェスティバルで目指すのは、そういうことなのかなあと、そう腑に落ちたんです。

出典:アニメ「ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会」第10話

ちなみに、彼女が新しいライブの形を思いついたきっかけは果林さんのライブだったようですが、この鬼ごっこでも侑ちゃんを巻き込んだのが果林さんなのは……面白い偶然ですね?

花火

最後のシーンでは、侑ちゃんと歩夢が二人で居たところに花火が上がり、みんなが集まって来てました。

これまでの二人や同好会を考えると、ここで二人が思わず見上げて見とれた、そしてみんなと合流するきっかけになった花火とは、スクールアイドルのことですよね。

花火には種類があり色も様々です。そして音とともに大きく開いてその美しさで人々を魅了します。ですがそれは長い間楽しめるものではなく、散るのもすぐ。だからより美しく映るのだと思います。

スクールアイドルも同様に人々にときめきを与える存在で、かつ期限の決まっているものです。自らを表現しようとするのがそんな短い間だからこそ、演じる者も見る者も、何かしら感じるものがあるのだとそう思うんですよね。

同好会が本格始動しようとする今ここで、その短い一瞬で目いっぱいに光り輝く花火が象徴的に使われているのは、なにやら趣深いのではないでしょうか。

歩夢が "立ち上がる" にはもう少し何かが必要なようですけど、それでも彼女を含めたスクールアイドルの 9 人(および他校アイドルたち)が、またスクールアイドルの世界を新しい形で盛り上げようとする侑ちゃんが、ここからどんな音を響かせ、どんな光で夜空を彩ってくれるのか楽しみです。

出典:アニメ「ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会」第10話

*1:歩夢といえば「ねえ、覚えてる?」ばかりがネタ扱いされていて、ちょっとかわいそうに思います。初出はスクスタのメインストーリーでしたか。マウントを取るために唐突に投げ込んだセリフ感が否めないので、仕方ないとは思いますが……。

*2:登場人物全員に、順番に一つずつセリフを言わせるやり方は「点呼」と揶揄されているのを見かけたことがあります。長くてナンボのビジュアルノベルなどでよく使われる手法らしく、テキストとワード数を稼げる一方、冗長になるため場がダレるように思うのですが――。ここでは上手く使ってますね。歩夢だけビジョンが定まっていないのが浮き彫りになってるように感じました。

*3:かすみんのと同程度の再生数、fav 数でした。(第 5 話より)