アニガサキ Ep3 "Shout Out Your Love"(英語字幕)感想

英語字幕を見ようと blu-ray をセットしたはずなんです。気がつくと見入っているのはともかく、アレコレ気になって各場面の関係性や挙句には日本語セリフの意味などを考え出しているのは、ちょっと目的が違うと思うんですよね。うーん、やっぱり第 3 話は消化しきれていなかったようです。放送時に上げた感想は以下にリンクを張りますが、いくつか書き加えたいなあ。

Shout out / Shouting

出典:アニメ「ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会」第3話

"Episode 3: Shout Out Your Love" / 第 3 話 大好きを叫ぶ

I just wanted to shout out my love / 大好きを叫びたかった私は

(略)

まずはサブタイトルの話です。原文と同様、同時に入るせつ菜のモノローグに合わせてありますね。

でもこれ、前回ラストの予告とちょっと訳が変わってるんですよ。前のお話では "Episode 3: Shouting Your Love" となってました。意味はもちろん変わりませんし、受ける印象もさほど変わらない……のかな? そこまでニュアンスの違いが分かるわけではありませんが。

意味が一緒なら、訳の形はどうあっても構わないと思います。ただ、タイトルのような固有名詞的に扱われるものを変えることがあるのかなと、ちょっと気になったのでした。どういった理由なんでしょうね。

Hanpen

出典:アニメ「ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会」第3話

愛  : Congrats on becoming the student council official trekking officer, Hanpen. / 生徒会お散歩役員就任おめでとう、はんぺん

シーンの順番が前後しますけれど、同じく細かい話なので先に回します。英語ではなくローマ字表記の話です。初出は第 2 話でしたが気づいてませんでした。

はんぺん Hanpen。

ヘボン式では、次に撥音(b・m・p) がくる場合「ん」は n ではなく m じゃありませんでしたか。*1 正しくは Hampen のはず? Hanpen だけでなく senpai(先輩。前話からかすみんがよく使ってます)も n になっているんですよね。

普段ローマ字に触れるのはパソコンの日本語入力が主*2 なので Hanpen に不自然さを感じるわけではありません。実際気づいていませんでしたし。でも一度目につくと、何となく落ち着かない気分にもなるんですよね。ちょっともやもや。

突っ込んでおきながら私も自信があるわけじゃないんですが、このあたりのルールは厳密じゃないのかな。

Pierced my heart

出典:アニメ「ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会」第3話

侑  : Setsuna-chan's words just pierced my heart, you know? / せつ菜ちゃんの言葉が胸にずしんってきたんだ

  • ずしん (副)(多く「と」を伴って)重い物が落ちたときなどに発する鈍い音を表す語。「荷物を―と投げおろす」 (スーパー大辞林 3.0)
  • pierce (他) 4(文)<感情・音楽などが><心>に突き刺さる、…を感動させる (ウィズダム英和辞典 第 3 版)

さて、ストーリーに沿ってコメントをしていきましょうか。音楽室でのせつ菜とのシーンは、侑ちゃんの熱い語りがやっぱりいいですね。

ここは表現の違いうんぬんというよりは、訳のチョイスが面白かったので取り上げてみました。

侑ちゃんは心が動いたことを「ずしん」という擬音語を使って表してますね。そこから受ける印象は(「重さ」もありますが)「鈍さ」です。

対する英訳は pierce という動詞。尖ったもので何かを突き刺す、何かが突き刺さるといった意味の単語です。日本語でも同じように「刺さる・刺さった」といった言い方をしますね。こちらから受ける印象は「鋭さ」でしょうか。

そう。意味は同じ「感動する」なのに、鈍さと鋭さどちらでも表現ができるのはなんだか不思議な感じがしたのでした。

I've never been

侑  : I've never been so moved by a song before! / 歌であんなに心が動いたの、初めてだった

侑  : I've never been able to be so passionate about anything. / 私、夢中になれるものとか全然なかったんだけど

侑  : But ever since that day, / あの日から

侑  : I've been hooked on school idols and I'm having so much fun! / スクールアイドルにはまって、今すっごく楽しいんだ!

続くセリフでは、英訳に "I've never been"、"I've never been"、"I've been" とあるのがテンポ良くて好きです。

それまで自分には何もなかったけれど、あるときを境にして、のめり込めるものができた様子ですよね。時系列に並んでいることもあって、その境目を示す "ever since 〜" が際立って見えます。自分を変えてくれた出来事(のあった日)がよほど大きかったのだと伝わってきますね。

これは S V から文が始まる言語ならではの表現方法でしょうか。同じような言い回しをしようとしても、文末で揃う日本語が出せる雰囲気とはまたちょっと違った感じです。

No longer exists

せつ菜 : Setsuna Yuki no longer exists! / 優木せつ菜はもういません

せつ菜 : I quit being a school idol. / 私はスクールアイドルを辞めんです

エマ  : It seems Setsuna-chan really wants to quit being a school idol. / せつ菜ちゃん、本当にスクールアイドル辞めるつもりみたい

変わってせつ菜の話に行きましょう。

このあたりは日本語で見ていた時はあまり気に留めていなかった箇所なのですが、私、英文を読むときにはどうやらちょっとした時制の違いが気になるようです。多分、ざっと読むのに慣れていないが故でしょうね。逐語訳のクセが抜けていないのかも。

スクールアイドルを辞めることについての、彼女の主張と、他のメンバーの受け取り方は違っていますよね。(せつ菜のセリフはアバンから、同好会は外でやっていた相談のシーンから代表してエマちゃんのものを持ってきてあります)

旧メンバーに向けて「I quit / 辞めた」と過去形で一方的に伝えるせつ菜に対して、同好会の面々はまだそれを認めていません。みんなの中では辞めたことになっていなくて、どう引き止めるかを話しています。

いきなり辞めると言えば、周りから止められるのはさもありなんです。自分が身を引くしか解決法がないと考えるせつ菜としては、先手を打ってもう済んだことだと言いたいのでしょうが――。

出典:アニメ「ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会」第3話

If the performance I did to settle things helps the School Idol Club even a little... / ケジメでやったステージが少しでも同好会のためになったのなら

Let Setsuna Yuki be the only one to disappear... / 優木せつ菜だけが消えて

(略)

That is my final selfish wish. / それが私の最後のわがままです

同好会がまた動き始めようとしているのを遠くから眺める彼女の、この心のセリフなんですよね。

原文では「消えて」が過去の話とも現在の話ともとれる「わがまま」ですが、英訳はどうも現在のこととして書いてあるような感じですか? 心の中ではまだ消してないような。まあ、本人が「せつ菜」をもう居ないものだとしたくても、周りが認めていないのなら「せつ菜ちゃん」はやっぱり存在します。それを「消させてくれ」という話なのかもしれませんが。

英訳の時制を見ていて、どうなんだろうなあとちょっと気になった点でした。

いずれにしても、「スクールアイドルになろうと思ったこと自体が間違いだった」と言い、「せつ菜」が消えるのは仕方ないと考える彼女は、でも、最初からすべてを無かったことにはしません。「If ... helps / ためになったのなら」と振り返り、優木せつ菜というスクールアイドルが確かに居た意味を大事にしている。そのあたりに彼女の未練が見えるような気がします。

They won't be able

出典:アニメ「ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会」第3話

せつ菜 : If I'm in the club, I'm just going to hold everyone back! / 私が同好会に居たら、みんなのためにならないんです

せつ菜 : If I return, they won't be able to go to the Love Live! / 私が居たら、ラブライブに出られないんですよ!

そしてその後のシーンで "won't be able" の主語が they になっているのを見せつけられて、ドキッとしました。

they、と提示されたとき、その裏に透けて見えるのは対立する we(ここでは I )です。

文脈においてこの "they" は「同好会」とみなしていいと思うのですが、せつ菜はその中に自分を含めていないのですよね。"If I return" という条件の下での話なのに、return 先に自分を勘定していません。

自分の「ため」はどうでもいいし、この時点では絶対視しているはずのラブライブに自分だけが「出られない」のも構わない。所属するしないの話だけでなく、益や害の議論においても自分は対象のソト。他のメンバーとの間にくっきり線を引いているのがより分かる they に思えます。

せつ菜は自らをとても寂しい立場に置いていますよね。だからそんな言葉を受けた侑ちゃんが「だったらラブライブなんて出なくていい!」と返すことになるわけです。

Matters to me

出典:アニメ「ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会」第3話

侑  : Well, I mean, I don't think it's the Love Live that matters here... / あ、いや……。ラブライブがどうだからとかじゃなくって……

侑  : I just don't like that you aren't able to be happy, Setsuna-chan. / 私は、せつ菜ちゃんが幸せになれないのが嫌なだけ

(略)

侑  : If I get to hear your songs, that's all that matters to me. / せつ菜ちゃんの歌が聞ければ十分なんだ

  • matter [動] (自) (1) a (物・事が)<…にとって>重要である、重大である (オーレックス英和辞典 第2版)

勢いでラブライブを否定してしまった侑ちゃんが、その弁明に一瞬しどろもどろになるのは、あれはあれで可愛かったですね。

原文ではごまかすようにしか言っていないので、ともすればラブライブを否定した印象だけが残ってしまう感じでしょうか。実際、シリーズの大きな柱であるはずの大会なのにそこに出なくてヨシとする流れはちょっと、といった声もちらほら目にしたように思います。

その点、英訳ははっきり書いてありますね。「ここで私が重要視しているのはラブライブじゃない。私にとって重要なのは、あなたの歌が聞けることなんだ」(多少意訳)自分が重きを置いているものは何なのか、同じ matter を使って、比較するように分かりやすく述べています。

これは、「(あなたも)そこ(ラブライブ)に出てほしいと思うでしょう」と、音楽室で問われていたことへの明確な回答でもあります。

今回の騒動の大本になっていたせつ菜の思い違いは 2 点でした。スクールアイドルはすべからくラブライブに出場すべし。そしてまた、ファンも必ずそれを望む。このお話では「期待される」がキーワードになっていることを鑑みるに、後者が彼女に与える影響は特に大きいでしょう。音楽室で侑ちゃんに打ち明けていたのはこの辺りの背景でしたね。

そこへ、そうじゃないファンもちゃんと居るよ、と侑ちゃんは反例を示します。ここの受け答えは英訳の方がスッキリしているように感じたのでした。

A proud member of

出典:アニメ「ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会」第3話

せつ菜 : I'm a proud member of the Nijigasaki High School Idol Club! / 虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会

せつ菜 : My name is Setsuna Yuki! / 優木せつ菜でした!

  • proud adj. 4 having respect for yourself and not wanting to lose the respect of others (Oxford Advanced Learner's Dictionary 9th edition)

吹っ切れたせつ菜は相変わらずカッコイイなあと思いながら、歌い終えた後の名乗りを見たら proud なんて単語がさらっと混じっていて、おお!と。英語はさらにカッコイイですね。

自分のことであっても、プラスな点をきちんと主張する文化はちょっと羨ましいです。謙虚であることが美徳とされる日本の文化も嫌いではないですけれど。

Thank you

出典:アニメ「ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会」第3話

せつ菜 : Thank you... / ありがとう

ここは彼女の口調がゆるむ瞬間です。たったひと言のインパクトが大きいですよね。

英語にも硬いものやくだけたもの、口調の違いはあります(あるそうです)。ですが日本語の「です・ます」のように、その有無だけで on/off が分かるような指標はないんですよね。

印象的なシーンではありますが、元のセリフが短いだけに、「ありがとうございます」ではないその感謝の言葉が醸す空気、間に引いていた線が無くなってふわっと距離が近くなった感じを英語で表わすのは――難しそうですね。

*1:同じ「ん」でも、たとえば新橋 Shimbashi と新宿 Shinjuku では口の形も音も違います。区別なくただ「ん」としか認識してなくても、私たち日本語話者はしゃべるとき無意識に使い分けているとか。というか、勝手にそうなるみたいです。

*2:私は親指シフトユーザーですからこれは嘘ですね。笑