蓮ノ空という Virtual School Idol

新しいスクールアイドル

この 2023 年 4 月、ラブライブ!の新しいシリーズが始動しましたね。

「バーチャルだけどリアル」と謳うとおり、蓮ノ空女学院スクールアイドルクラブは“バーチャル”が大きな特徴の一つのようです。

専用アプリ「リンクラ」内や、公式 YouTube チャンネル等では彼女たちの様子が見られますが、みなさんはいかがご覧になられますか。私には想像していた以上にそのバーチャル具合が良く見えました。

まず単純に可愛らしいですよね。造形もそうですが、モーションキャプチャで拾っているという、彼女たちの動きがとにかく愛らしい。

配信を見ていると、兎にも角にも目を引かれるのは、元気組の 3 人でしょうか。花帆さん(日野下花帆、CV 楡井希実)、ルリちゃん(大沢瑠璃乃、CV 菅叶和)、めぐみ(藤島慈、CV 月音こな)の 3 人は動きも大きく、常に何かやっているので眺めていて飽きません。

そして独特な雰囲気を持つ綴理(夕霧綴理、CV 佐々木琴子)ですよね。動きにも喋りにも自分のペースを崩さないので、何かするたび意識を持っていかれます。後ろで意味なく揺れてたりもするし。

じゃあ、おとなしめな 2 人、さやかちゃん(村野さやか、CV 野中ここな)や梢先輩(乙宗梢、CV 花宮初奈)が今一つなのかと言うと、決してそんなことはなくて。

という話をこのブログのマクラにしたいと思います。

私の思うハイライト

誰かが話をしている時、さやかちゃんはちゃんとそちらを向いて、うなずいて相づちを打っていますし、また適宜コメントを挟んているのを見ると、全方位に気を配ろうとしているのが分かります。真面目な下級生らしさが伝わってきます。

彼女がよくやっている姿勢に、肘を軽く曲げて、両こぶしを胸の前に持ってくるのがあるのですが、そこには一所懸命やろうと少し力んでいる様子が伺えます。かわいい。

YouTube「【2023年4月2日】蓮ノ空YouTube特別配信!/ラブライブ!蓮ノ空女学院スクールアイドルクラブ (Link!Like!ラブライブ!) #蓮ノ空メンバー初配信」より

あと、そこかしこに綴理先輩に対するリスペクトが感じられるのが非常に良いです。配信では、綴理の発言フォローを即座に買って出る姿が目につきますけれど、それはただ面倒を見るのが性に合っているからだけというより、先輩のことが好きでたまらないからに見えるんです。素敵な先輩のことが誤解されて伝わって欲しくないのかな。

発言フォロー以外で、先輩好きが垣間見える例を一つ挙げるなら、特別配信(4 月 2 日放送)での自己紹介コーナーですね。綴理の番だけ 5 割増しで盛り上げようとしていた のを、私は見逃さなかったですよ。笑

梢先輩はなんと言ってもその所作でしょう。そこに立っているだけで美しいですし、ちょっと前に出てきてまた帰っていくだけの動きがもう優雅ですよね〜。好き。

一部の隙もないのに、無理があるようには一切感じられないのがホント素晴らしい。綴理とはまた違った意味で、他にない雰囲気を纏っているんですよね。

これは本人の直接的な話ではないのですが、印象的だったのが、同じく自己紹介の時の様子です。それまでみんな賑やかにやっていたのに、梢先輩の番になって彼女が一歩前に出た途端、緩かった場の空気がピンと引き締まったんですよ。これだけで普段の彼女の立ち位置がわかるってものです。*1

でもそれがヒリつくような緊張感ではなく、張り詰めた中にも、遊びというか柔らかさのようなものを残していたのが、彼女たちの仲の良さが伺えるようで興味深かったなあ。

YouTube「【2023年4月2日】蓮ノ空YouTube特別配信!/ラブライブ!蓮ノ空女学院スクールアイドルクラブ (Link!Like!ラブライブ!) #蓮ノ空メンバー初配信」より

めぐみと綴理が、おへその上で手を組む梢先輩の立ち姿を真似して、こっそり茶化しているのがなんとも言えなかったですし、1 年生ズがそれを真似しかけて、やっぱり止めていたのが、それ以上になんとも言えなかったです。(相手は先輩ですものね。笑)

後ろで見えているもの

と、ざっと何点か挙げてみましたが、これらはすべて背景として視界に入る事柄です。トークの内容だとか、歌・ダンスのように、彼女たちが意識的にこちらへ提供しようとしているモノではありません。

見えて「しまって」いるとでも言えばいいのかな。本来であれば必要ない要素なのですが、カメラの前に立った時、自然とこちらまで届いてしまう情報です。

この「余計な」情報が入ってくるのって、バーチャルが全てを映すプラットフォームだからなのでしょう。そして、その「余計な」があるおかげで、彼女たちをより身近に感じられるのが嬉しいなと思ったんですよ。

サブ要素

少し話は変わりますが、みなさん、「きょうの Aqours」とか、スクスタ「毎日劇場」とか、最近出たものならスクフェス 2 の「スクールアイドルの日常」とか好物でしょう?(決めつけ)

アニメ等のストーリー性のあるお話は、スクールアイドル物語の主軸です。そこでは事件が起こったり、衝突したり、葛藤したり、成長したりしますね。

そういったメインの場では、「お話」にフォーカスを当てるため、必要のない情報は一般に削ぎ落とされるものです。見えているものはすべて「お話」に必要で、逆に関わってこないものは画面に入らない。

でも、主役である高校生の女の子たちって、そこでお出しされたモノが全てではありません。見えていないところでだってちゃんと生きています。学校に通って、勉強して、部活は描かれることが多いですけど、友達と遊んだり、家族とかと過ごしたり。

先に挙げた「きょうの Aqours」などは、そういった日常の切り抜きです。

スクールアイドルな彼女たちが、スクールアイドルをやっていない(やっててもいいですが)一幕。メインのお話ではないところで、彼女らが何をしてるのかを見せてくれます。ちょっとした出来事を通して、普段考えていることだとか、メンバー同士の関係性だとか覗き見ることができます。

それが本編では描かれなかった側面だと、新たな一面を知れて嬉しいですし、逆に本編で出てきた事柄を補強するようなエピソーででも、納得が深まってやっぱり嬉しいものです。

ただの物語の登場人物では終わらない、一個人としての情報量が増えるんですよね。キャラクターの厚みにつながる。リアリティが増すと言ってもいいです。世界観を大事にする視点に言い換えるなら、彼女たちのことをより深く知れる、かな。

それが、メインストーリーを楽しむかたわら、サイドストーリー的なものも同時に好まれる理由の一つじゃないかなと思うんです。

全部見える

バーチャルで配信する場は、そういった細かい情報の宝庫です。

配信そのものがサプリメントであることは言うまでもありませんが、それ以上に、私が「余計な」と呼んだ勝手に映ってくる情報こそがキモじゃないかと思うんです。

再度話が逸れますが一つ例として、Aqours の逢田さんの逸話にこんなのがあるそうです。*2

ライブの MC で一人ずつメンバーが喋っている時、順番待ちの間、逢田さんはちょくちょく目線を落として真顔でいることがあると。人の話を聞いてないっぽいですよね。少なくともそう見えます。

実際は自分の番に喋る内容を考えているそうなのですが、いかにも逢田さんらしい様子で私は大好きです。

……が、大体において、カメラはその時話しているメンバーを映しているのです。当然逢田さんはフレーム外に。だから、配信か円盤しかない私には、逢田さん仕草を見るチャンスがあまりないんですよ。まあ、切られるべき「余計な」情報ですものね。仕方がないです。

しかし、蓮の配信ではそういったことが起こりません。カメラ固定で全員が映り込んでいますから、後ろで何をしてようが一切カットされずに見えます。これは嬉しい。

ライブ感

また、バーチャルは「メンバーとしてその場に立っている」ことが、大きな強みになっているように思います。意識せずとも勝手に画面に映り込んでくるから、「余計な」情報を盛り込むのにこれほど自然なことはありません。

似たような画(コンテンツ)を用意するにしても、これがアニメやドラマなどになると質が異なってくるでしょう。そういった設定を取り入れるには意図的にならざるを得ず、どうしても作り物めいてしまうキライがあるように思うんです。

作られた物が悪いわけではないのですよ。でも細かい場所まであまりにもすべてが綺麗に収まるのは鼻につくと言いますか……。ライブ感が失われる?

バーチャルのガワを被り、メンバー本人としてその場に立った時、楽しい時間を作ろうとするキャストの一所懸命さは、そのままメンバーの一所懸命な様子として私たちの目に映ります。生じる緊張感も、メンバーたちの間に生まれたものとして感じられます。

バーチャルの向こうにリアルがあるおかげです。

リアルとリアリティは違うなどとも言われますけれど、それでもリアルが背景にあることで増す真実味はあるはず。空気感だとか「余計な」細部といったところに現れるのがソレなんじゃないでしょうか。

主力コンテンツの一つ

しかし、これ、キャストの負担は大きいでしょうね。ずっとメンバーで居続けるのって大変。大筋の台本はあれども、細部はアドリブだらけですもの。

インタビューを読んでいたら、案の定こんな話を見つけました。

佐々木
それから、トークレッスンもしました。そのおかげで、お互いのパーソナルな部分を知ることができたと思います。
まず、お題を渡されるんです。例えば「音楽について」とか。そこから1分くらい内容を考えて、お話をするんです。最初の頃は、自分たちのことを知る意味も含めてキャストとして話していたんですけど、少しずつメンバーとして話す練習をしていきました。
蓮ノ空女学院スクールアイドルクラブ 新シリーズはバーチャルで/日経 X TREND

言われてみれば当たり前なのかもしれませんけれど、メンバーに「なる」練習もしてるんですね。

ライブコンサートには、歌やダンスの練習が欠かせません。

バーチャル配信も同等にこうやって準備しているのだと考えると、蓮ノ空プロジェクトにおいて、配信ってかなりウエイトの大きいコンテンツなんだろうなあ。気軽に視聴できるから、ついついオマケみたいに思ってしまいますが、全くもってそんなことありませんね。

バーチャルのおかげでそこにライブ感が生まれ、メンバーたちがホントに居るように感じられる。リアルにスクールアイドルしている様子を覗くことができます。

逆に言えば、彼女たちをいかにリアルに近づけられるかに力を入れているってことなのでしょう。

リアルの追求

このリアルさに関しては、かなり徹底していているように思います。

先に挙げた特別配信は、前半がキャストによるトーク、後半がバーチャルメンバーによる自己紹介の二部構成になっていまして、切り替わるタイミングにこんな一幕がありました。

楡井
この後は、(バーチャル)メンバー 6 人による、初の生配信です
【2023年4月2日】蓮ノ空YouTube特別配信!/ラブライブ!蓮ノ空女学院スクールアイドルクラブ (Link!Like!ラブライブ!) #蓮ノ空メンバー初配信

「初の」に強調をおいて、楡井さんが後半パートの紹介をすると、それを受ける形で、後ろから(菅さんと月音さんかな)「がんばれー」の声がかかっていました。もちろんバーチャルの娘たちに向けてです。

実際、メンバーの中に入るのは自分たちな訳ですから、ここでは「頑張る」または「頑張ります」が正確な表現ですよね。そこを「頑張れ」と。

なるほど。他人に向けて送る声援にしているところがニクイです。バーチャルなスクールアイドルを、自分たちとは別と捉えていないと出ててこない言葉ですもの。

メンバーの 6 人はちゃんとこの世に生を受けて、今この時、蓮ノ空女学院でスクールアイドル活動をしている。そこに真実味を帯びさせる言葉です。小さくとも重要な仕掛けだと思います。

そやって些細なところにまで気を配ってくれるから、創り出された世界観に浸ることができるんですよね。

他にも――

こちらは月音さんのツイートです。アプリ内で初ライブをした時のもの。出演はスリーズブーケと DOLLCHESTRA でした。*3

「一年生は特にドキドキだよね」を見て、「そっか。上級生は去年 1 年間の経験があるけど、新入生はステージに立つの初めてだものね」と自然と思えたんです。なんだか嬉しくなりました。

壁を越えて

ここでちょっと他シリーズに目を向けてみましょう。

μ’s の物語は、スクールアイドルのお話でした。そう、「お話」でした。

穂乃果ちゃんたちが廃校を阻止しようとしたり、大会に向けて頑張ったりしていたのは、結局のところ「向こう側」の出来事です。「こちら側」にいる私たちには、彼女らを直接応援することができません。

ライブに行けばステージ上に穂乃果を見たかもしれませんけれど、それは新田さんを通してであって、本人がそこにいるわけではありませんよね。*4

悲しいかな、物語は「向こう側」だけで完結してしまっているのです。その中の人物や出来事には私たちが直接関わることはできません。これは Aqours や Liella! も同様。

そこを行くと、虹は少し毛色が違っていて、こちらはアイドルだけではなく、アイドルとファンとのお話でした。

スクスタではプレイヤーは、サポーター・あなたちゃんとして物語の中に入っていきますし、アニガサキでは侑ちゃんという私たちの代表(代理)がアイドルたちを応援しています。

ファンが二次元の物語の中に入っていく構図ですね。

私がアイドルたちと同じ高校に通っていたとしたら、もしかしたらあり得たかもしれない、IF のお話。物語を追うことでアイドルの応援を擬似体験できる、私が「向こう側」へ行けるお話です。

しかしそれも想像の中の「お話」なんですよね。本当の私は高校生ではありませんし、あなたちゃん・侑ちゃんがする形の応援は、私の現実とはかけ離れすぎているのです。

浸って楽しめる一方で、やっぱり、リアル私とは決してリンクしてくれない悲しみがそこにはあります。

さあ、ここで朗報です。蓮ノ空がやってくれました。ここまで述べてきたように、蓮はアイドルが「こちら側」へ来てくれる物語ですよ!

スマートフォン向けアプリ「リンクラ」より(強調のため、加工してあります)

物語がいつのことなのか、リアルな尺で明記してあるのも他とは違う点ですね。2023 年のこの春、金沢の山奥にある学校で、スクールアイドル活動をする女の子たちが「居る」んだなって、わかるようになってます。

だから、私は彼女たちを直に応援することができるんです。想像上でなく。「現実のもの」として。

次元の壁がなくなった……とまでは言い過ぎでしょうか。でも、今までのシリーズではなかった体験です。お話を追うのではなく、リアルタイムで「起こっていく」ことを目の当たりにするのはとても不思議な感覚。次元の境界が曖昧に感じられる程度には作り込まれていて、非常に面白い試みだなと素直に感じました。

期待

冒頭で述べたように、蓮ノ空女学院スクールアイドルクラブというと、まず「バーチャル」が思い浮かびます。新シリーズということで、他との比較で取り沙汰されるのもその点が話題の中心になっていたんじゃないでしょうか。

でもいざ蓋を開けてみたら、受けた印象は思っていたものと全然違いました。

確かにバーチャルは強力な武器です。タブン、蓮を蓮たらしめる欠かせないモノになると思います。しかし、あくまでも手段にすぎないとも感じました。

手段は目的のために手にするモノであって、自身は目的たりえません。大事なのは何のためにその手段を使うのかでしょう。

公式サイトを覗くと、meta タグに以下のような description が見つかります。*5

バーチャルだけどリアル 少女たちと「いま」を描く青春学園ドラマ、スタート!

「蓮ノ空女学院スクールアイドルクラブ」公式サイト(Link!Like!ラブライブ!)

バーチャルという新しい媒体を使って為したいものとは、まず「リアル」の提供かな。そして「いま」の描写なのでしょうね。

スクールアイドルたちにリアルな質感を与え、彼女たちの物語が現実に即して進んでいくのを私たちに見せてくれる。そのためのバーチャルなのだと思います。

考えてみれば、「バーチャルだけどリアル」とは矛盾した文句のように聞こえます。バーチャルとは仮想現実のことで、仮想とついている以上、それはリアル=現実とは別個のものです。逆説の「だけど」で繋げられていることからもわかりますね。

しかし、そのバーチャルを使うことで、次元の「向こう側」にあったはずのものを、「こちら側」に居ると感じさせてくれるんですよねえ。リアルでないものがリアルさを生じさせるとは、ちょっと奇妙な感じがするかも。

さて、バーチャルの可能性については、十分に理解させていただきました。シリーズも 6 つ目にして、まだまだその懐の深さと奥行きを感じさせるラブライブ!には驚かされるばかりです。

しかし、私がつらつらと述べてきたことは、蓮の物語では枝葉にあたる部分です。それだけでは完成しません。枝ぶり大きく、葉も厚く茂るには、しっかりとした太い幹が必要ですね。

幹である彼女たちのスクールアイドル物語は始まったばかり。この幹がどう太く大きく成長していくのか、これからが楽しみです。

花帆さんたちの「いま」。スクールアイドル活動を「リアル」に応援できることを嬉しく思った 2023 年の春でした。

*1:先日行われたミニアルバムのリリイベでは、同じく梢先輩の紹介の時に、会場全体が似た空気になってたのが興味深かったです。中の人・花宮さん自身にそうさせる雰囲気があるのでしょうね。

*2:すみません、出典は失念してしまいました。どこかの生配信でご本人が弁明なさってたと記憶しているのですが。

*3:添付されたイラストは、お留守番だったみらくらぱーく!の 2 人ですね。かわゆい!!

*4:幻視させる仕掛けやキャストさんたちの力は素晴らしいと思いますが、それはそれとして、です。

*5:いい謳い文句だと思うんですが、実ページ内には記述がないみたいなんですよね。もったいない。