アニガサキ Ep1 "The First Thrill"(英語字幕)感想

TVアニメ「ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会Blu-ray 第1巻 メニュー画面

円盤に面白いオプションが付いているのを発見しました。是非とも ♡ on にしなくてはいけませんね。こんなところにせっかくの教材があるのですから、楽しむついでに勉強しようと思います。

ああ、ちなみに放送時に上げた、日本語の第 1 話感想は以下のリンクです。

yotamamo.hatenablog.com

それでは英語字幕 +α にコメントしていきましょう。

Ayu-bun

出典:アニメ「ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会」第1話

歩夢 : I'm Ayu-bun, bun. / あゆぴょんだぴょん。

「ぴょん」はもちろんウサギが飛び跳ねる様子ですよね。他にも「~だワン」「~だゾウ」等と、鳴き声や名前を最後に付けることで動物を表すのは日本語でよく使われる手法だと思います。英語ではあまり見ないやり方なので、どう訳されているかは気になっていました。

なるほど。全く同じように最後に置いたんですね。"bun" は bunny((幼児語)ウサちゃん)の略。いかにも小さい子が使いそうな(あくまで日本語感覚での「使いそう」ですが)言い方で、原文が持っていたリズムも崩さないスマートな訳ですね。

ただ、これは可愛さを売るための語です。原文の半濁音と訳文の濁音*1 を比べると、半濁音「ぴょん」のほうが断然上だなと思ってたんですが――。

その後の会話まで見て、訳し方の上手さに感心しました。

歩夢 : I'm starting to get hungry. Why don't we go downstairs? / なんかお腹空いてきちゃった。下降りない?

侑  : Agreed, bun! / 賛成だぴょん。

(略)

侑  : So, what should we eat? / で、どうする?

歩夢 : I'm feeling buns. / やっぱりコッペパンじゃない?

侑  : You read my mind. / だねー。

  • I'm feeling ~ : ~の気分だ(ここでは「~が食べたい」のような受け答え)
  • bun(s) : (ハンバーガーなどの)丸パン
  • You read my mind. : 私も同じことを考えていた。/どうして私の考えてることが分かったの。

bun(ny) と bun(s) ですよ。愛さんが好きそうですね。笑

原文で「やっぱり」とあるのは、二人の間で何らかの共通認識があることを示唆しています。たとえば「いつもの」とか「美味しいと評判の」とかの意味ですね。

訳文にはそれに該当する語は見あたりません。ですが、ウサギの話題で bun、bun 言ってたから、「何食べる?」となっても bun(パン)と前の話題に影響されている形なんですね。この流れだと "what should we eat?" に buns が返ってくるのはある意味当たり前。そこに「やっぱり」のニュアンスが隠れているように思えて、英訳の妙に唸ったのでした。

Chan

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出典:アニメ「ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会」第1話

侑 : Her name is Setsuna Yuki-chan. / 優木せつ菜ちゃんって言うんだって。

歩夢 : "Chan"?! / 「ちゃん」!?

名 Setsuna ではなく、姓 Yuki の方に "chan" が付いていると妙な感じがしませんか。居心地が悪いといいますか。「ちゃん」って普通は名前の方に付ける語ですものね。*2

ここは気安く「ちゃん」付けしたことに歩夢が驚く場面です。本来なら英語には必要ない敬称のための接尾語を明示する必要があるので、仕方なくなのでしょう。

でもどこかしら不都合が起こるなら、いっそのこと日本語のまま「姓・名」の順で "Yuki Setsuna-chan" と書いて良かったんじゃないかと思うんですよね。慣習的に「名・姓」順にしているだけで、別にそういった決まりがあるわけではないと聞いたことがありますし。(事実、英語等でも「姓・名」順のままで使う国もあります)

こういった順番や敬称等の付け方なども文化の一つです。一度できてしまった慣習は変えづらいでしょうけど、オリジナル性は大切にしたいと思うんですよね。

Juggling two clubs

出典:アニメ「ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会」第1話

演劇部部長 : Now that you aren't juggling two clubs, / 掛け持ちじゃなくなったわけだし、

  • juggle : ~を両立する

重い雰囲気の場面なのに、私は以下のような絵を思い浮かべてしまいました。楽しそうです!?

クラブのイラスト(女性・ジャグリング)
  • juggle : ~でジャグリングをする
  • club : 棍棒(ジャグリングで使うのも club だそうで)

Being a school idol

出典:アニメ「ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会」第1話

果林 : What are you going to do about being a school idol? / どうするの? スクールアイドル

エマ : I’ve been trying to talk to Setsuna-chan since she’s our president, / 部長のせつ菜ちゃんに話そうとしたんだけど

エマ : but I haven’t been able to get a hold of her. / 連絡つかないんだ。

果林さんは どうするの? と聞いた後に スクールアイドル と付け足します。あまりにサラッと言うものだから、日本語で見ていたときは一切引っかからなかった場所だったのですが、ここは思った以上に深い問いかけだったりしますか。

私はですね、英訳を見るまではこの スクールアイドル を、どうやら「同好会」の意味で捉えていたようです。「同好会が無くなった(無くなりそうだ)と聞いたけど、再開させるために何かはたらきかけるの?」そんな意味合いの、即物的な質問だと思っていました。

これは多分、展開を先読みしてしまったがための誤読なんだと思います。

この時点で私は、同好会が存続してちゃんと活動を盛り返すことも、せつ菜が戻ってくることも知っていますし、なんなら果林さんが加わることだって知ってます。だってそうでないとお話が成り立ちませんものね。気になっていたのはその過程がどうなるか。そこばかりを見ていたように思います。

それで二人の会話がそちらへ流れていく前提で聞いていたため、果林さんがポンと投げた スクールアイドル という語を間違って拾っていたようです。

さあ、この文を反訳すると 「スクールアイドルであるためにエマは何を(どう)するつもりなの?」くらいでしょうか。

今見返してみると、確かに果林さんはそういった意味合いで尋ねていますね。同好会をどうこうする(!)話ではなく、その前段階の、エマちゃんがアイドルをやっていくためにこれからどうしたいか。私が考えていた表層的な話ではなく、学校生活そのものや日本での暮らしに関わってくるような問いでした。

それに対して「せつ菜に連絡が取りたい」と、エマちゃんがどうしたいかを答えて、やっと同好会についての話になるわけですね。

旧メンバーにはそれぞれスクールアイドルに対するおもいがあると思いますが……。加えて、そのためにわざわざ渡航してきている背景を考えると、エマちゃんにとっての状況はかなり厳しいと言えるでしょう。

それを心配して どうするの? と声をかける果林さん。短い言葉ですけれども悪くないですね。人とは一歩距離を置きがちで、でも親友のことを思う彼女が、必要以上には踏み込みすぎないようにしながら窺う感じ。その様子が見て取れます。

この後エマちゃんのために奔走することになるんですよねえ。続くセリフの手助けを申し出るところまでと併せて、とても好きなシーンになりました。

I love...

出典:アニメ「ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会」第1話

歩夢 : I love them! / 私、好きなの!

話の流れがあるので誤解するようなセリフではありませんが、それでも面と向かって「好き」と言われるとドキッとしますよね。「何が」好きなのかを明かさず、まず強い感情だけを表に出せるのがこのシーンの良さかなと思うんです。これは日本語ならではのセリフの組み立て方でしょうか。

英訳では "them" が落とせないのがもったいない。その後に続くセリフを聞かなくても、この文だけで「好き」の目的語が you じゃないと分かっちゃいますものね。これ以上の訳は難しいでしょうが、それでも原文と比較しちゃうとずいぶん弱く思えます。

(どちらの言語が優れているという話ではありません。日本語で作られている作品ですから、当然そちらの良いところが出ているだけです)

We can't stop

歩夢 : Let's start... / 二人で……。

歩夢 : Let's start this together, Yu-chan! / 二人で始めようよ、ゆうちゃん!

(略)

歩夢 : But if we did meet her, / けど、会っちゃったら

歩夢 : I felt like I'd just get too emotional, so I got scared. / 自分の気持が止まらなくなりそうで怖かったの。

歩夢 : But once we've started moving, we can't stop. / それでも、動き始めたなら止めちゃいけない。

歩夢 : We can't hold back. / 我慢しちゃいけない。

歩夢 : I love them! / 私、好きなの!

ここでは主語が "I" と "we" で忙しなく入れ替わってるんですね。日本語で楽しんでいた時は特に意識してなかったのですが、強調したライン・後半 2 行の "we" を、私は I のつもりで聞いていたように思います。もしくは一般論の you で。

ですが、なるほど「二人とも」がこの文の主体なんですね。スクールアイドルにときめいて "動き始め" てたのは侑ちゃんもですし、諦めかけている侑ちゃんを留めるためもあって、いま歩夢は必死に言葉を紡いでいるんですものね。

侑ちゃんがどうしたい(したかった)かは、少し前のシーンで出ています。それを受けてここで歩夢が主張しているのは「私が」どうしたいかと、「二人が」どうすべきかの二点。それらを絡ませながら喋っていたんですか。

私も止められないし、ゆうちゃんも止めちゃいけないと思う。だから最初に出てきた言葉が 二人で始めよう になる、と。

前項・them の話とは逆で、主語がはっきりしている言語はこういったところでの取違えが少ないのが利点でしょうね。英訳を見て少しスッキリしました。

出典:アニメ「ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会」第13話

ところでこの告白の、つまりはスタートした時の主体が we であるなら、最終話で歩夢が口にしていた 始めて良かった も、同じように「二人とも」の意味を帯びてくるように思います。

ううん。ちょっと思っただけ。始めて良かったって。(第 13 話)

実際この 1 ワードだけでは、歩夢の心の内はわかりません。ですがもし、自分が得られたものを思ってだけでなく、夢に向かって歩き出した(今まさに転科試験を受けている)幼馴染を思って、そしてその彼女との新しくなった関係を思って言ったのだとしたら――このセリフは、私が最初感じていたよりずっと感慨深いはずの言葉なんだろうなと、そんなことを思いました。

*1:こちらは英語なので有声子音と言うべきでしょうか。

*2:名字に付けて呼ぶ場合もありますけど、その場合は独特の感じを持つようになるんじゃないかと思います。軽薄な印象を受けますよね。少なくとも、女の子の名前に付けるときのニュートラル感ではなくなります。