選ぶ(択ぶ)のは本人 <ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会 2期 第6話「“大好き”の選択を」感想>

偽のフラグと問題のないバレ

A パートはせつ菜が撮影されているところから始まっていました。腰が引け気味の彼女に、かすみんが一言。

かすみ
生徒会長だとわかるところは、後でカットしておきますから

ちょっと思いませんでしたか? あ、フラグだ!って。笑

今回はせつ菜の正体が明かされるお話です。そのことはアバンで示唆されています。それでいて OP 明けがこれですものね。かすみちゃんには前科*1 がありますから、この導入を見せられては、もしかしてと思ってしまうのも無理からぬことでしょう。

でもまあ、これじゃあまりにも見え透いてるかな。本当にフラグだったとしたら、仕掛けは陳腐だという評価になるかもしれませんね。事実、この台詞は「バレる」方向にははたらかずに終わります。さて、まずこれが一つ目。

違う方向からのバレならありました。ちょっとした不注意から、栞子さんに正体を知られています。しかし、栞子さんもたまたま見つけて気になったから確かめただけで、知り得た情報をどうこうしようとしてません。

彼女は、フェスの準備やら生徒会の手伝いやらをしていますから、せつ菜面でも菜々ちゃん面でも互いをよく知る人物です。身内と言ってしまって差し支えない。正体を明かしたくないという本人の意思も尊重してくれますから、結果として事情を知る味方が一人増えただけなんですよね。これで二つです。

騒ぎが起こりそうな気配は匂っていましたが、結局両方とも不発に終わってましたよね。

わざわざ起こすアクション

隠していた正体が皆にバレて騒動になるというのは、よくある話の作りかもしれません。

このエピソードだって、せつ菜の中身が知られて大騒ぎになり、なんやかんやあって公表に至る、などという流れも考えられます。それでもタブン、事態は似たような収まり方をしていたと思います。

しかし、実際のエピソードはそうなってない。そこに物語のメッセージが込められているんじゃないかなあ。と、私は愚考するんです。

皆に知ってほしいと願って自ら発信するのと、状況に迫られて明かさざるを得なくなったのとでは、その行為の示す意味は大きく変わってくるでしょう。たとえ、最終的に彼女が全く同じ気持ちでいたとしてもです。

だから、せつ菜が自ら動いていく、その話の組み立て方そのものにも意味があると思いたいのです。

これは私見なのですが、アニガサキは個人の意思に重きを置いてるように思います。あなた「は」どうしたいのか。私「は」どうするのか。*2 そういったことに話の重きを置いているように。

周りの状況の変化や、そのとき個人に要求されるものなども、もちろん関わっているのですけれど、それらは基本付け合せ。概して「個人としての意思決定」がメインディッシュとして提供されているように感じるんです。

今回のせつ菜の件ですが、もし外圧(=バレ)がスタートだったなら、「コトの顛末」が話の主軸となっていくでしょう。ドタバタ劇の色がずっと濃く出て、彼女の意思決定は軽く扱われていたんじゃないかと思います。彼女がどう考えどう結論を出そうとも、正体を明かすことに関しては結果が動かないのですから。

ところが、せつ菜は必要に迫られてないのにアクションを起こしています。こちらの場合、動機に注目が集まるんじゃないでしょうか。わざわざ行動するに至った考え。そうしたいと思った心の動き。それらを際立たせる話の作り方だなと思うのです。

エピソードを俯瞰すると

なんやかんやあってせつ菜は考え方を変え、隠すことを止めて正体を明かすことにしたようです。

自分の立場を踏まえてだとか、周りのみんなのためにだとか、そんな理由からではありません。自分がそうしたいと思ったからが主な理由ですから、この決断はエゴですよね。

ファンにはいろんな人がいます。たとえば、覆面で活動することに神秘性を感じていて、せつ菜のそこが好きだと言う人もいるかもしれません。そういった人たちにとって、覆面を脱ぐ行為は裏切り以外の何物でもないでしょう。

また、菜々ちゃん側にも似たようなことが言えます。

友人たちに隠れてアイドルやっているのは……そうですね、それ自体が裏切りではありますが、まあ始めてしまったものは仕方ないとしましょう。それで正直に打ち明けるのが誠実かというと、必ずしもそうとも言い切れないところが難しい。

生徒会長としてならあと数ヶ月、スクールアイドルで見ても卒業まで 1 年と何ヶ月かです。期限がはっきり定まっているのですよね。当初はいいと思ってやってたことじゃないですか。この残り短い期間なら、(罪を背負いながら)そのまま隠し通すのも一つの誠意の形じゃないかと思うんです。

いずれにしても、問題になる最たる理由は、「現時点では二重生活がちゃんと送れている」事実なんですよね。そのままでいいのに、なぜ彼女はトラブルの種にもなりそうな事実を公にしたのか。それが問われることになります。

何も、せつ菜が周りのことを全く考えずにこの決断を下したと言いたいのではありません。「期待に応えるのが好きだ」という彼女のこと、むしろ考えていないわけがない。それでいてやはり動いたのなら?

彼女にはそれだけの理由があるということ。皆にわざわざ伝えることが、彼女にとって、とてもとても重い意味を持つのでしょう。

……というふうに、彼女の決定の重要性が、より強調される話運びに感じるんです。

主体性

だから、ここに描かれているのは主体性だと、やはり私は思いたい。

立場だとか、周りに対してだとか、配慮だって必要です。でもそのために本人不在の行動ばかりを選んでいては、誰のための人生かわからなくなってしまいます。主役は自分です。自らが真にやりたいと思ったことなら、押してでもやらなくっちゃ。とね。

もちろん、やりっぱなしではダメでしょう。周りには自分の気持ちや意図を伝え、必要なら理解してもらうように努めることも大事です。

それが件の発表ですよね。

フェス・文化祭のオープニングで流していた、彼女のメッセージがとても好きです。

最初に「生徒会長の中川菜々です」と挨拶をした後には、「私」が主語の文が最後までずうっと続いていくんですよ。非常に良いなって。

以前の彼女なら、こういった場では、会長の立場でモノを述べていたと思うんです。個は消して、公人としての挨拶をしていたと想像します。それが一転、つらつらと語るのは(役職を通してではあっても)彼女が一個人として体験し感じたことばかりなんです。

話す中身もさることながら、その主体的な語り口からも伝わってくるものがありますよね。

さて、そんな表明を聞いて皆はどう感じたかですが。同好会メンバーはもちろんせつ菜の決定を支持していました。ファンたちもこの発表に納得していたようです。

これには、彼女のアイドルとしての在り方や、生徒代表としての姿勢が、今回の「選択」にしっかり繋がっているのが大きいと思います。

「本気系」の名が示す通り、せつ菜にごまかしや気まぐれは一切*3 ありません。真面目で何事にも正面から当たる娘だというのは皆が知っています。その彼女が、他の誰でもない、自分のコトバで伝えることです。真剣に考え抜いた末に出てきた「選択」であることは明白です。

だったら、心に届かないわけがないよね。と、そんなことを思った第 6 話でした。

以下は蛇足です

今回の感想ブログについて補足というか、謝罪というか。少しばかり付け加えさせてください。

実は 6 話を視聴したのは何ヶ月も前の話になります。見終えた時にはあと二つほど語りたいことがありました。

一つはせつ菜の変化そのものです。優木せつ菜と中川菜々、二つの学生生活を送っていた彼女が、それぞれを別個のものとしてではなく、重ね合わせて考えるようになった経緯とその意味するところ。

もう一つは母親周りの話です。もっとも身近にいるうちの一人で、多分もっとも「期待に応えたい」人のこと。菜々ちゃんが自分の「ワガママ」をなぜ伝えるのか、どう伝えるのか。

以上の 2 点で、今回形にした主体性の話をサンドイッチしようと思ってたんです。けれどちょっと上手く書けそうになくて、なんとなくそのまま棚上げになっていました。

そして寝かせすぎましたね。反省してます。

今回改めて書くにあたって、やはり内容には悩みました。が、この 2023 年 3 月末の今、書きたいこと一つに絞ることにします。

結果、前後をカットすることになったこのエントリーは、感想としての体が整っていると言い難いかもしれません。「選択」の具体的な中身についてはほとんど触られれてないかな。また、締めも甘いままで尻切れトンボになってます。

でも、まとめがうまくいかないからずっと筆が止まってたワケでして……。書き上げるだけまだマシだと開き直ることにしました!

以上のような理由で、いつも以上にフワッとした感想に仕上がった次第です。まとまりのない文章に最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。

*1:以前、ファイルを取り違えて、見せちゃいけない映像を流してしまってましたね。(第 1 話)彼女だけの落ち度ではありませんけど。

*2:1 期第 3 話、屋上で侑ちゃんがせつ菜に伝えていたのが正にそれでした。

*3:唯一正体を隠していたことだけ除けばですが。笑