私の夢は影の中に? <ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会 第 11 話「みんなの夢、私の夢」感想>

スクールアイドル・フェスティバルへ向けての準備は順調な一方で、侑ちゃんと歩夢の関係がなんだか怪しげな方向へ舵を取り始めたお話でしたね。二人に関しては 前回 の答え合わせに思えたので大筋ではコメントすることがあまりないのですが。(と言いつつ長い記事になってしまいました)歩夢を批判するような書き方は前回したので今回は擁護気味にいきます。

だんだん離れていくように感じる幼馴染に、なんとかついて行こうとアレコレ手を出そうとするも、手伝えることも意見できることも何もなく、より距離を感じるようになる歩夢の様子は見ていて少し辛いものがありました。

歩夢の心のうち

今回のお話は暗喩的なカットが多かったように思います。

標識などが示すもの・構図

出典:アニメ「ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会」第11話

まず侑ちゃんと一緒に帰る途中で挿入された右折禁止の標識。こちらは二方向への矢印なので意味は明白ですね。そして一人帰るなかの赤信号も分かりやすい。避難口誘導灯が何を指すのかには悩みましたけど、これはゆうちゃんからの呼び出しが探し求める出口に見えたといった感じでしょうか。

進むべき道がだんだん無くなって、歩夢の世界に閉塞感が増していくのが感じられました。

4 枚めはせつ菜と歩いている場面です。ここでは緑の光が暗闇を支配してますね。嫉妬、かな。

出典:アニメ「ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会」第11話

彼女の見ている世界がもっとアカラサマに表現されてたのは、ライブ会場の下見に行ったあと同好会のみんなと飲み物を手にしているシーンだと思います。画面の左右で見事に真っ二つ。ゆうちゃんと私、あとはそれ以外とはなかなかな絵面ですね。

ただせつ菜だけが真ん中の境界上に立っているのは気になります。ゆうちゃんの特別近くに居るように思えるからか、他のメンバーよりも自分(たち)に近い存在なのか……。それでも案内板という "障害物" が間にあるために、それ以上は近寄らせない意思を感じさせます。

いえ。見方を変えると、上段の柱が示す境界が案内板の分だけ左にズレて、せつ菜が寄ってきてるとも取れますね。二人だけのはずだった世界にせつ菜が侵入して来ようとしている? こっちが正解かもしれません。

出典:アニメ「ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会」第11話

歩夢にとっては、侑ちゃんと共にいるのがまずありきで、そのほかは二の次になっているのが現状なんでしょうね。

障害物

今までずっと一緒だった幼馴染のゆうちゃん。

どちらかだけがやっている習い事のようなものもなさそうでしたし、今までは朝から晩までべったりだったとすると、それこそ家族よりもずっと近しく親しい存在です。だから好きなことや嫌いなこと、今やっていることや考えていることなど相手ついてはなんだって知ってる。

……はずでした。

出典:アニメ「ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会」第11話

ここはランニング途中で少し離れた場所に侑ちゃんを見つけて声をかけようとするシーンです。隣に居たせつ菜と話し始めたのが見えて、歩夢は挙げかけた手を下ろしてしまいましたね。

彼女を映すカットでは手前の木と植え込みが邪魔になって視界が十分に確保できていないのが印象的でした。専有面積はそこまで高くないのに、明るい画面の中で障害物の陰の存在はとても大きく感じます。

これではゆうちゃんがよく見えない。なんでも知ってたはずの幼馴染に、自分の見えない部分ができていっているように感じるんでしょう。

少し話は変わるのですが、侑ちゃんの知らない面を見てきた歩夢の反応の変化は、ここまで上手く描かれていたように思います。

第 2 話ではかすみんのあざと可愛さを喜ぶ侑ちゃんに、ただびっくりしていました。*1 第 3 話せつ菜にハマっているのをすでに知ってたから、彼女に抱きついたことに大きな反応はなし。5 話では みんなを応援したくて という侑ちゃんに怪訝そうな顔を初めてしてましたが、果林さんが加わって喜ぶ姿にはそれが予想できていたので少し呆れる程度でしたね。

ところが 7 話で他校アイドルまでチェックしてると知ったとき辺りから驚き方が変わってきてました。みんなと居る中で表情が抜け落ちるの、怖いんですが……。前回分の記事では触れませんでしたけど、例の目撃シーンの後は顕著ですよね。侑ちゃんが何を考えているか本当に分からなくなってきていて、困惑している様子が見て取れます。

もういっぱいいっぱいで自分の内と侑ちゃんにしか目が向いてなさそうです。

出典:アニメ「ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会」第10話

陰/影

さて話を戻しまして。上で述べたシーンでは障害物の陰が云々という話をしましたが、今回の歩夢周りはやはり陰/影だったように思います。(他には足と靴の話……かな? 後述します)

まずせつ菜との打ち合わせが終わるのを待っているシーンです。並んだパスケースを薄暗がりの中でぼんやり眺める姿そのものも見ていられないのですけど、ここでは彼女、影の中に顔を突っ込む形になってるんですよね。そうか。自分からそっちに入ってしまうんですね。

出典:アニメ「ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会」第11話
出典:アニメ「ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会」第11話

その後のカットでも、侑ちゃんの顔には光が当たっているのに、歩夢の方は陰や影がかかったままで少し不穏な雰囲気が漂っています。

侑ちゃんの部屋でのシーンはもっと暗かったですね。

ピアノのことを教えてもらえてなかっただけでなく、他の娘がそれを知っていた。何であってもまず打ち明けてくれていたはずの幼馴染が、私には言わずに別の娘にだけ伝えていたと知れば、心穏やかでなんて居られるわけがありません。闇が深まるのは道理です。

出典:アニメ「ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会」第11話

ゆうちゃんは変わってしまった? 私の大好きな幼馴染はどこに居るんだろう。

部屋の暗闇に立つ歩夢は、その様子がそのまま彼女の心情を表しているように思えました。暗くて何も見えない中に幼少期の写真立てだけが明るく浮かび上がっていて、それがまた不気味なんですよね。昔は二人だけで世界が完結していて幸せだった。彼女の心のなかには今そんな思いしか無いんでしょうか。

出典:アニメ「ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会」第11話

その後のシーン。あまりに衝撃的で各所でもあれこれ言われているようですが、ここの本質も「影」にあるんじゃないかと私は思います。

光の当たる場所へゆうちゃんが出られないように、影の下に抑え込みたい。

影とはさっき述べた歩夢の心の中、幼少期のような二人だけの世界のことでしょう。歩夢は、侑ちゃんにそこから出ていって欲しくないんじゃないかな。

(腕だけで抑え込んでいて体は覆いかぶさってないのにずいぶん重く感じるのは、二人の身長差もさることながら、頭が画面下になる構図のせいでしょうね)

足と靴

最後のシーンでは「足」も強烈でした。

それまでにも歩夢の足元を映すカットはいくつかありまして。まあ彼女なら当たり前なんですけど、全てお行儀よく揃ってるんですよね。みんなと雑談している時も、暗がりで侑ちゃんを待っていた時も、せつ菜と並んで歩いていた時だって。

出典:アニメ「ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会」第11話

それが最後では、普段きちっとしている歩夢が脱いだ靴を揃えてない。その時点で、もうずいぶん心がヤバそうだなとは思いましたが……。一度靴を脱ぎ散らかしたと思ったらその後にアレですか!

靴は外で履くものですし、取り繕っていた体裁を表すのかな。それを保っていられなくなって脱ぎ捨てた?

そんな感じなのかなあと一連の SS を眺めていて思いました。だとすると、ずっと抑えていた自分のおもいをあの場面で激しくぶつけるのも、(足の)行儀が悪くなるのも、納得できる気がします。

しかし、スクールアイドルを始めるとき確かに 自分に素直になりたい とは言っていましたが、これが正しい形なんでしょうか。

歩夢の夢はどこに

歩夢に伝えたかったのはもっと先のこと。

私ね、夢が出来――。

嫌! 聞きたくないよ……。

暗い室内から月明かりの外へ目を向けて話を進めようとする侑ちゃんを、歩夢はこう遮ってました。

ゆうちゃんが外の世界に飛び出していって、だんだん知らない人になっていってる。それに耐えられなくて過去にしがみついてる歩夢が、そうですよね、さらに「先の」話をしたいとは思えません。

でもこれはズルいですよ。もし自らの主張に理があるなら意見を交わして通せばいいわけで、それをせず相手の言い分さえ聞かないというのは、負けるのが分かってるからでしょう。自分の言っていることがただのワガママだと知ってる、その裏返しです。

私、ゆうちゃんだけのスクールアイドルでいたい。だから私だけのゆうちゃんでいて。

その後の だから も強烈だと思うんですよね。

主張に無理はあるものの、彼女が「だから」の後を口にするのは理解できます。変わらない昔のままの、私の知ってる侑ちゃんでいて欲しい。

問題は、前段がその後段と「だから」で結べるのかどうか。

前段の「~でいたい」は自らの願望でしかないので、これを提案と見なすなら「~でいます」と捉えていいですよね。あなただけのスクールアイドルでいます。ふむ。

「私は A をやります。だから、あなたは B をやってください」。この場合、あなたにとっての A は私にとっての B と等価じゃないと提案は成り立たないと思います。述べたように後段 B は歩夢が侑ちゃんに欲するところですが、さて、前段 A の「歩夢が自分ひとりだけのスクールアイドルでいること」は侑ちゃんにとって魅力的なんでしょうか。

もちろん歩夢は可愛らしいですし、彼女がスクールアイドルとしてより可愛くあろうとするのは望むところだと思います。ですが侑ちゃんがそれを独り占めしたいかといえば、むしろ逆ですよね。ほら、ジョイポリスで今日子ちゃんに声を掛けられていた時、歩夢にファンが付いたのを知ってすごく嬉しそうにしてましたし。(第 6 話)

出典:アニメ「ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会」第6話

歩夢の魅力をみんなに知ってもらいたい。侑ちゃんが思う二人の夢はそこにあるはずです。

分からない歩夢じゃないと思うんですが、侑ちゃんを繋ぎ止めたいばかりにおかしな方向へ考えが行ってますね。

自分の気持ちをあんなに真っ直ぐ伝えられるなんて、スクールアイドルって本当に凄い。私もあんなふうに出来たら、なんて素敵だろうって。(第 1 話より)

第 1 話の告白は素敵でした。ここで言う「自分の気持ち」とは、決して侑ちゃんに対する歪んだ愛情ではなかったはずです。可愛いものを好きな気持ちが 動き始め、それを 止めちゃいけない、我慢しちゃいけない と。やりたい事は自分の中から出てきたものなのですから、(一人では踏み出せなくて手助けを求めていても)彼女の夢の根本は、侑ちゃんとは無関係のはず。

もちろん、大好きな幼馴染が隣で応援してくれるのはこの上なく嬉しいでしょう。けれど表現する手段としてスクールアイドルが良いと思って始めたんですから、気持ちを伝える相手をただその一人に限定できるはずもありません。

直接感想言ってもらうの、初めて。嬉しい。(第 6 話より)

あのとき今日子ちゃんには歩夢もこう返してましたよ。そう。歩夢の思っていた「私の夢」、侑ちゃんに一緒に見てもらいたい夢、二人の夢は外を向いていたはずです。

それが侑ちゃんを留めるために、曲げて「あなただけのスクールアイドルでいます」と言うどころか、ゆうちゃんだけのスクールアイドルでいたい 内向きでいたいと本来の夢を否定までするようになるとは。言わせてしまった侑ちゃんの罪は大きいと思いますが……。

始まった何か

あのね。歩夢に話そうと思ってたことがあるんだ。ただ自分でも自信が持てなくって、もっと弾けるようになってからって思ってたら時間経っちゃってさ。

そもそもの原因は、今やろうとしている事柄を侑ちゃんが話していなかったこと、なんですよね。隠していたと言うよりは、積極的には話題に出そうとしなかった感じでしょうか。しかし、いずれにしても言っていないのは同じ。歩夢にとっては「私が」知らないことが問題なのでしょう。

歩夢は表面的なピアノの件を問題視して(しまって)いますが、ただの手段の話だから侑ちゃんは大して重要だと思っていない。それが余計に話をややこしくしています。すれ違いが起こるくらいなら、見つけた自分の夢を幼馴染に教えるくらいはしてても良かったんじゃないかと思うんですけどね。自信がないとか言ってないで。

でも彼女が今まで言わなかったのは何となく分かる気がします。

自分の夢はまだ無いけどさ、夢を追いかけてる人を応援できたら……私も、何かが始まる。(第 1 話より)

今までこれといって打ち込めるものもなく、ただ何となく過ごしてきた侑ちゃん。スクールアイドルはそんなとき不意に出会えたとびきりのトキメキでした。でも自分がそのトキメキにどう関わって行きたいかはまだ見えていなかった。そこで、夢を追いかけている人を応援することで何かが始まるのを期待した彼女が――やっと見つけたかも知れないその何か。

歩夢に言えばもちろん賛成してくれるでしょう。ですが、進む方向へ後押ししてくれるのが分かりきってる相手への相談って、真に迷っている時にはしづらいモノな気がします。*2

できるかどうかまだ分からなけれど、やっと見つけた夢です。go/no-go の判断はやっぱり自分でしなくちゃいけないんじゃないかと、私もそう思います。だから今までは話題に出しづらかったのかな。

それで、侑ちゃん。歩夢を呼び出して話すところだったということは、進む覚悟は決まったんですね。

その夢は当然スクールアイドルに関わるものでしょう。ならみんなが集まっている場所で言えば一度で済むのに、わざわざ歩夢だけを、ここで先に呼んでいるんですよね。歩夢本人は悪い方にばかり考えてそのことに思い至っていないようですが、侑ちゃんにとって彼女が大事な存在なのは明白です。

またその夢は絶対に歩夢と共にあるはず。だって隣に居るって約束していましたからね。

ならばそれらをパートナーに伝えて正しく理解してもらうことも、二人で夢へ向かうための大事な一歩ですよ。がんばれ侑ちゃん!

重い話ばかりに始終するのもアレなので

他の気になったシーンも言及しておきます。

出典:アニメ「ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会」第11話

楽しみに、してて。

まずは何と言っても璃奈ちゃん。あのとき飲み込んでしまった言葉が、やっと言えましたね。色葉ちゃんたちと仲良くなれているのは分かっていましたけど、過去を乗り越える場面をこうしてちゃんと見られたのは嬉しいです。

そして我らがかすみんですよ。かすみん Box はとても可愛らしいのですけど、人が居なくて投書が見込めない(?)時期に設置しちゃってこの結果とは。これが示しているのはやっぱり、"かすかす" ならぬ頭がスカスk……。(のちほど一杯になってて安心しました。笑)

出典:アニメ「ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会」第11話

*1:そして自らは違うと思っているのに、侑ちゃんが肯定したのでそっち路線の「かわいい」を模索してました。

*2:人に相談するときって、ある程度は自分の中で答えや覚悟が決まっているものだと言いますしね。