つないだ手 <ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会 第 12 話「花ひらく想い」感想>

スクールアイドル・フェスティバルの準備が着々と整って、ファンたちと共にみんなの気分が盛り上がる中、立ち止まったままだった歩夢が侑ちゃんと一緒に一つの答えを出したお話でした。曖昧な形で歩き始めた第 1 話とは違い、進む先を二人がしっかり見据えたのは素敵な着地点だったと思います。

前回までの振り返り

いやあ、前回の歩夢にはやられてしまいました。自分の元からゆうちゃんが離れていく。それを怖がっているものだとばかり思っていましたが、その逆、自分がゆうちゃんから離れていくことをも不安に思っていたとは。読み違えていましたね。

しかし後者は今までに描写がなかったような気がします。12 話に入って多少それらしきシーンがあるくらいで、それも浮かない顔をしている程度では原因までは読めないと思うのです。むしろそれは、前者が気にかかってスクールアイドル活動に身が入らないのだと私は思っていました。想像だにしなかったコトなので、歩夢本人の口からその話が出てきてもただ呆然とするだけで……。

侑ちゃんが離れていく方の話は前々回、前回でとても丁寧に描かれてたのですから、自分が離れていく側の戸惑いも今までの話の中で少しくらいは匂わせて欲しかった。それが正直な感想です。今回の話を見るに、その二つは表裏一体で同じくらいの重さを持っているはずなのですから。

と、文句はこのくらいにしまして。

さて、そうなってくると前回ラストのセリフはまた少し違った意味を持ってきます。ゆうちゃんだけのスクールアイドルでいたい とは、現状そうなっていない、できそうにないからこその "願望" でしょうか。いま自分が侑ちゃんから離れつつあることに薄々気づいていて、そこに不安を覚えている。多分ですけど、不安に思っていてもそちらに流れていくのを止められないのでしょうね。だから「~でいたい」という形をとって飛び出してきた。そしてその世界は片方だけでは成り立たちませんから、相手にも 私だけのゆうちゃんでいて と。

相手と自分、両方に対しての不安が高じてつい口をついて出てきたのだとすれば、自分の夢を否定したり侑ちゃんの進む道を邪魔したりはどちらも本意ではないと思うのですが……。二人はずっと一緒に変わらずやってきたんです。主に追従する側らしかった歩夢が、いま起きつつある変化に不安を感じるのは確かでしょう。進む道が分かれ始めているからといって、はいそうですかと簡単には受け入れられないのが難しいところですね。

せつ菜と歩夢

私がスクールアイドルを始めたのは皆んなのためじゃないんだ。見て欲しかったのは、たった一人だけだったの。

歩夢のこの言葉を額面通りに受けとると、スクールアイドルがただ幼馴染の気を引くための手段ということになります。第 1 話での 可愛いものが好きスクールアイドルやってみたい という告白が、とても薄っぺらいものになってしまいますね。それではさすがに寂しすぎる。

だから自己表現の手段としての魅力はちゃんと感じていたのだと思いたいところです。件の告白の重要なポイントだったように思いますしね。そして、自らが発した表現を受け取るのは "ファン" だとも分かってはいたはず。ただそのファンというものの具体像を意識してなかった、といったところでしょうか。彼女は「良いところなんて」「こんな私」と卑下する言い方をよくしています。自己評価が高くないから、ゆうちゃん以外のファンがいる私、を想像できてなかった?

いずれにしても、当初ファンとして想定していたのは幼馴染ただ一人だけでした。それが実際に今日子ちゃんたちに応援されるようになって、嬉しい気持ちが湧くと同時に困惑したと。

まごころ系と言われる彼女のことです、たとえ迷っていても、出来たファンを蔑ろにしているわけじゃないでしょう。ただ、嬉しい気持ちのままファンに応えようとしている今、ゆうちゃんとは違う方向へ進んでいくようで、それが不安で仕方がない。

私、もう動けないよ。

ゆうちゃんもすごく張り切ってて、楽しそうで良かったなって、そう思ってるのに。(あんなことをしてしまった)

歩夢は邪魔をするような言動をとっていても、理性ではちゃんと侑ちゃんの応援をしています。多分それは自分に対しても同じこと。「動けない」とは言っていますが、自身も進むべきだと思っているはずなんですよね。踏み出す勇気が足りないだけで。

そこに勇気を与えてくれるのがせつ菜なのは物語の熱いところでしょう。好きなものへの気持ちを抑えようとするのが無駄だと、自らの経験として知っている彼女の言葉は強い。響きますよね。

ところで、ここには一つ興味深い符丁があるように思います。アイドルは自己の発信手段であると同時に、ファンからの反応も返ってくる双方向性を持つものです。歩夢は発信のみを意識していたため、返ってきた反応の扱いに戸惑っていました。一方でせつ菜は周りの期待を意識するあまり、発信が思ったように出来ていなかった。スクールアイドル活動において同じ好きを貫く話なのに、ファンの声に応えていいかどうか迷っていたのと、応えすぎていたのと。全く逆の話にも見えるのは面白くありませんか。

二人の出した答え

出典:アニメ「ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会」第12話

さて、決意した歩夢は走り出します。上手へ向かって駆けていくのはいいなと思う*1 のですが、ここで階段を降りさせたのは勿体ないですよね。第 10 話ではメンバーの持つ意識の高さをそのまま位置的な高低で表していました。そのとき一人低かった歩夢が、やっと前を向けたこのタイミングですよ。さらに下への移動にしてしまったのはいただけないと思います。

ですが「地に足がつく」描写はこの上なくかっこいい。*2 第 2 話が済んでからというもの、ずっとフラフラと定まらない様子ばかり歩夢は描かれていましたからね。ようやく自分の足で立てるようになったんだなあ。

出典:アニメ「ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会」第2話、第12話

答えを見つけた歩夢が画面右奥から走ってきて合流する構図は第 2 話でもありました。あれも夕暮れ時だったのを思い出して引っ張り出してみたのですが、ずいぶん印象が違いますね。あのとき歩夢は表現方法に悩んでいただけなので、侑ちゃんとの距離は開いていません。今回は二人がすれ違っていましたから、遠い遠い。

その距離を詰めるために、立ち止まっていた側の歩夢が後ろから走ってくるのは当然なのですが、ここでは侑ちゃんも迎えに戻るのがまた良いなと思います。二人の問題ですものね、解決も二人じゃないと。

出来たよ! 歩夢のステージ。

侑ちゃんは自分の夢を歩夢に伝えようとして拒絶されていました。最初に自室に呼び出したときは話すこと自体を止められ、次に学校で一人歩いているのをつかまえたときは――いいかな? と確認するところが彼女の優しさだと思うのですが――「聞いてもらいたい」と言ったのを再び拒否されています。

歩夢は冷静じゃなさそう。言葉では聞いてもらえないと考えたんでしょうね。なら行動で示すとは、やっぱり侑ちゃんイケメン(?)だなあ。

それって私と一緒じゃなくなるってことでしょう? わかるよ! だってゆうちゃんがこんなこと言うの初めてだもん。

「聞きたくない」と言うのはただのワガママで、それが出来ないことだと歩夢も頭では分かっているはずです。お互いから離れて、それぞれ自分の好きなことをやり始めるのは避けられるわけじゃない。ただ 一緒じゃなくなる のが不安なだけなんですよね。

その歩夢に贈った花の花言葉が「変わらぬ想い」ですか。

いつだって私は歩夢の隣に居るよ と最初に言った、あの約束は違えない。そういうことでしょうね。「二人は変わらず一緒だ」という答え。歩夢が欲していた言葉だと思います。

せつ菜と話した時点では、歩夢は新しく出来た好きに向かって進もうと決めただけでした。勇気を出して踏み出すことを決意してても、そのことでゆうちゃんから離れてしまう不安は残っていたはずです。

侑ちゃんが「変わらない」「私の特別は歩夢だ」と言ってくれた今、自分の中でも「やっぱりゆうちゃんが変わらず特別である」ことに歩夢は気づけたんじゃないかと思います。離れるわけじゃないんですよね。新しい大好きができても、ゆうちゃんは変わらずそこにある。これで不安は解消できたかな。二人で出せた結論は素敵です。

出典:アニメ「ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会」第12話

この絵はあまりにもな図でしたね。まあ、どちらの道も来た方からは真っ直ぐに伸びていなくて先が見えてないとか、(これは歩夢視点でしょうから)歩夢の道の先から光が差しているとかもあるんですけど……。私がハッとしたのは二人の立っている位置でした。

夢ができてやりたいことを見つけたばかりの侑ちゃんは、やっと曲がり角に差し掛かったところ。すでにアイドル活動を始めていて、戸惑いながらでもファンと交流していた歩夢は、少し先まで進んでいます。ここ数話は、前を向いている侑ちゃんと立ち止まっている歩夢の対比を見てきたので、すっかり忘れていました。ちょっと足を止めてはいても、先に夢を見つけて、より進んでいたのは歩夢だったんですよね。何だか騙し絵を見たような、少し不思議な気分になりました。(私が勝手に騙されていただけですけど)

増えた、けど?

ねえ、前に進むって大切なものが増えていくってことなのかな。

今回の話ではこのセリフが一番好きです。ただ、歩夢ちゃん、私の解釈とはちょっと違うね?(どっちが正しいって話ではありません)

心の中には大切なものを入れておく宝箱のような場所があって、歩夢のそれは最初 "ゆうちゃん" だけで埋まっていたんだと思います。そこへ、新しい大切なものとして "ファン" を入れようとした。(図 1)

追加で入れようとしてもそのスペースがないから、最初から入っていた "ゆうちゃん" を小さくするか、どけるかしなければなりませんね。"ゆうちゃん" が減ってしまう。希薄になっちゃう。ひょっとしたら消えてしまうかも。歩夢が懸念していたのはそれじゃないかと思うんです。(図 2)

でも実際は違うんですよね。宝箱は拡張できるものです。拡張して、別のものを入れる余地が作れる。そして、まず宝箱にその余裕があるからこそ、そこに入れたくなるものができるんだと思います。だから新しく収めても、元からあるものを圧迫したりしない。"ゆうちゃん" は減りも消えもせずに、そのままの形でそこに居られます。(図 3)

前に進むとは、心の中の宝箱を大きくすることなんじゃないか。私はそう思うんですよね。大切なものが増えるのはその後かな、と。結局は同じことなのかも知れませんけど。

さて、二人の道は分かれ、それぞれお互いとは別の大切なものができました。

それでも今、侑ちゃんの中で依然として歩夢が特別であることは、花を贈ったことで両者間の確認が取れています。一方でその逆、歩夢の中でゆうちゃんが特別なことは、歩夢が再認識しただけでしたね。バランスを取るためには、こちらも二人の間で確認を取る必要があるんだと思います。

でもさ、歩夢を最初っからかわいいって思ってたのは私なんだからね。

だからこのセリフなんでしょうね。

ここは「やっぱりゆうちゃんは特別なんだよ」などと歩夢本人が言っても良かったと思うのですが――「でも私が一番だよね?」と、侑ちゃんの口から言わせたのはひねりが効いていて好きでした。マウントを取りにいくのは(他媒体の)歩夢のやり方ですし、嫉妬するのも歩夢の方ばかりでしたものね。歩夢が侑ちゃんべったりから少し離れた今、逆のベクトルが顔を見せるのは面白いです。

出典:アニメ「ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会」第12話

そしてこれを最後にしましょうか。左はアバンで歩夢が侑ちゃんの腕をとったシーン。右が終盤の場面です。構図の対比*3*4 もあるのですがここでは置いておくとして、取り上げたいのは手をつなぐ行為です。

新しい二人の関係を表すのに手をつなぐのは良いですよね。どちらかが寄りかかってるわけじゃない。二人とも自分の足で立って歩いていて、間には少し距離がある。でもすぐ隣に並んでいて、ちゃんと繋がってもいる。腕を組むのは歩夢だけのアクションでできていましたけど、手をつなぐためには双方が握る必要があるところも素敵だと思いませんか。

SIF に向けて

ところで、毎回幼馴染二人の話に尺を取るので、同好会にはほとんど言及できてませんね。まあ向こうは物事がアッサリ進みすぎているからというのもあるのですが……。

アイドルもファンも全ての垣根を超えるようなイベントは準備が整い、あとは当日を迎えるばかりでしょうか。

アイドルたちは演者側だから携わるのは当たり前ですし、他校にも多少のツテができていたので学校間も行ける。生徒会に手伝ってもらえそうな下地がありましたから、学校も巻き込めそう。この辺りまでは予想ができていました。ファンだけがどのような形で参加するのかイメージつかなかったんですが、準備どころか企画からガッツリ参加とは。すごく楽しそうじゃありませんか。

ニジガクはソロで、皆んなのやりたいことがバラバラなこと。人気が出始めていても校内ファンが主で、アイドルとファンの距離が近いこと。このイベントでは色んな要素がプラスにはたらいてますね。小さめの会場が多いというのも、自分たちの好きなように飾り立てられるから逆に嬉しいポイントです。あのフワフワした内容の初期企画書からよくここまで持ってきましたね。相談に乗っていたせつ菜も GJ です。

このチャンスに、他のスクールアイドルファンにも歩夢ちゃんの良さをアピールできるものにしたいんです。

応援するアイドルを守り立てるためにアレコレ考えて、準備をして。それを当のアイドルと一緒にできるのって最高ですね。今日子ちゃんたちの入れ込みようも分かるってものです。

ニジガクがどこまで大きくなるのかは未知数ですけど、小回りが利く今は今で、それを目一杯活かしたお祭りを楽しめるのは素晴らしいと思います。当日にどんなパフォーマンスや演出、出し物などを見せてくれるか楽しみですね。

出典:アニメ「ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会」第12話

最後に一つ、今週も本筋とは関係ないコメントを入れておきます。

足をプラプラさせる璃奈ちゃん、と言いたいところですが控えまして*5、この絵にします。拳の握り方にも違いが現れていて面白いなとぼんやり見ていたら、果林さんだけ自然体じゃないですか。カッコイイ! 気勢をあげる場面でこれだけリラックスしていられるのは素敵です。自分への自信かなあ。あと今回のイベントではファンや周りの人たちへの信頼もでしょうか。ここ一番に向けてぐっと力を込めるのも悪くはないけど、私もこれくらい余裕が持てるようになりたいなと思った第 12 話でした。

出典:アニメ「ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会」第12話

*1:左右の移動はさまざまな意味があるそうですが、ここでの右への動きは "前向きさ" や "意識の高さ" を表す、はず?

*2:このアニメ、足の描写が妙に細かいような気がします。前話の影響で私がそういう目で見てしまっているだけなんでしょうか。

*3:左図。両側、木と建物エントランス部のせり出しによる圧迫感。道がゆるく曲がっているため先の見通しの悪さ。正面の建物が正に壁。前回ラストの続きで歩夢の世界そのもの。/右図。二人の進む先、視線の先が 1 点透視の消失点=ずっと先まで二人で歩いていくことを予感させる。照らされた道。夜の場面なのにライトアップのコントラストによって昼間より「明るく」感じる。

*4:ここで対比させるにあたり、ついでにチェックをしたら、腕組みと手つなぎでちゃんと足の出し方が変わっているのを確認しました。(腕組みは二人が左右の足を出すタイミングが一緒、手つなぎは逆になる)うーむ、凝ってますね。

*5:一番贔屓だけは意識して言及を少なくしているので、結果的に二番贔屓ばかり取り上げることになってしまっています。どうしても目が行きますよね。でも今回は自粛。と言いつつ触れてしまってますが。