ぬまづ、もしくは無いはずの実在性

Aqours と発見!みんなのぬまづ!」は静岡のケーブルテレビ、トコチャンで 2021 年 9 月に放送されたオリジナル情報番組です。Aqours メンバーが「地元」沼津を案内するコンテンツなのですが、当該地域でないと見られなかったため、残念の声が多数上がっていたように記憶しています。それがこのたび期間限定(2022 年 3 月末日まで)で、YouTube にて配信されることになったみたいですね。

湧いた感情

公開されている分 は私も見てきましたよ。

で、なんだか嬉しいなって。どう頑張ってもアクセスできなかったコンテンツに触れられるようになったから? 確かにそれもあるんですが、それだけじゃなくってですね。胸の奥のほーで、すごく小さくですけど、じわっと温かいものが広がる感じがしたんです。

どう説明したら良いんでしょう。そうですね……。

こちら側を見てくれた

まずは少し夢のない話から入りましょうか。

沼津は Aqours の「地元」ですが、メンバーが本当に住んでいるわけではありませんよね。現実の沼津をモデルにサンシャイン!! の街が作り出され、千歌ちゃんたちはその架空の「沼津」の中で生きているにすぎません。

ですから沼津を Aqours の街だと言うとき、おそらくそこにはある種の願望があると思うんです。リアルの沼津とアニメの「沼津」*1 を重ね合わせることで想像の上だけでも次元の壁を越え、アニメ世界を実際に手に取れるもの・触れられるものとしたい。そしてそこに暮らす Aqours の「息づかい」を感じたいと願う。そんな願望から、沼津は Aqours の街だ、と言い切るんだと思うんです。

沼津を媒介にして彼女たちの世界へ耽る。沼津という窓を通して、向こう側世界を覗き見ると言ってもいいかもしれません。楽しいですよね。

しかし想像では越えられても、それで実際に次元の壁が取り除けるわけじゃありません。できるのは向こう側を覗き見ることだけ。

加えて残念なのは、二つの世界の関係が非対称的であることです。こちら側からは窓の向こうに強い憧れを抱くのに、向こうはこちら側・現実世界を原則認識してくれないのですよね。

世界は二つあるのに、向こうは向こうだけで完結していて、こちらとは無関係に動いている。それでは眺めていても、どこか箱庭感が払拭できないように思います。アニメは女の子たちのお話を綴るためのものですから、作り出した「沼津」に「リアリティ」を持たせるためにも、リアル側に言及しないのは当然なのですけどね。でもこっちの窓からただ見つめるだけの片思いって、やっぱりちょこっと寂しい。一度くらい手を振ってほしいなあって思いませんか。身勝手な願望ですけど。*2

そこを今回のようなコンテンツは補ってくれるように思います。

自分たちの街として現実の沼津を紹介してくれる。それはすなわち Aqours が、彼女たちの住む「沼津」を透かして、リアル沼津を見てくれているということだと思うんです。上で述べたことの逆の構造ですね。

一方通行だったはずの思いが、向こうからも返ってくるんですよ。その事実(妄想?)だけでもまず嬉しい。そしてそれ以上に、二つの世界の非対称性が崩れたことって、もっと喜ばしくありませんか。箱庭感が薄まるように思います。向こうを「生きる」あの子たちが、より自由に動き回ってくれているように、私にはそう感じられます。ツクリモノじゃないんだなって。

この辺りの話は何も今回だけでなく、みかんやら、お茶やら、フェンシングやら、あと何ありましたっけ*3、そういった他のタイアップでも同じなのですけれども。でも絵があるだけより、番組にゲストで呼ばれ、ナビゲーターとして参加する形の方が「リアリティ」が増すんじゃないかな。

こっちの世界も見てくれるの、嬉しいですよね。

私にとっての沼津

というようなことを、ぼぉっと考えてはみたのです。……が、今回私が感じたおもいは説明しきれないように感じたんですよね。何か足りないものがありそうだと。それで頭の中を整理するために筆を取った次第です。

最後に付け加えたようなタイアップ物まで含めれば、サンシャイン!! に限らず、向こうの住人がリアルへ言及する例は少なくありません。しかし他ではこういった特別な感情は湧いてこないように思えたんですよね。例えば今回のものが μ’s やニジガク、Liella! で、神田秋葉原やお台場、原宿表参道だったとしても、こんなふうには心動かされなかっただろうなって。

タブン私にとって、沼津が、そしてそこを「生きる」Aqours が特別なんでしょう。

サンシャイン!! に出会うまで、沼津は私に全く縁のない場所でした。アニメを見てこの街を知ったわけなのですが――。

まず思ったのが私の住んでるトコと似てる!と。気候や海、浜、そして海の幸などは太平洋岸の街なら大体似かよった感じになるとは思うんですけどね。他に一緒なのは水族館、ダイビングスポット、お茶、みかんとかもかな。そうそう、条件が揃えばウチの方からも湾向こうに富士山が見えるんですよ!

あと街・町の規模ですね。中心地もそうだし、内浦が少し外れた集落というのも似てるんです。用事は街まで出かけなきゃ済ませられないことも多くて、それで事足りなければ(県内を飛び越えて)他都府県の大都市にすぐ目が行くところも一緒。

町を一言で表すなら、よく言えばゆったりと時間が流れる場所。悪く言うなら……停滞していて取り残されてしまいそうな所でしょうか。悲しいことですけど、今の日本だと地方はどこもそんな感じですかね。

だから、高校生の千歌ちゃんが「何者でもないこと」に悩み、普通であることに苦悩していた様子は肌感覚として理解できました。そこから脱却するため、今の自分の手の届く範囲で探して華やかなスクールアイドルを見つけたときの喜びも。加えるなら彼女たちのトーキョーに対するいささか強すぎる憧れと、その裏返しである畏怖のようなものもですね。

私にとってサンシャイン!! とは、自分と重なるものがある作品なんです。沼津はそれらを生み出す土壌なわけで、好きな作品の舞台という以上に、その逆の「作品を好きにさせてくれた要素」といったほうがより正確なのだと思います。

いずれにしても沼津は気になる街です。ニュースなどを目にすれば自然と意識が向かいますし、そうでなくてもサンシャイン!! や Aqours の話題と共にアレやコレやとやって来てくれますよね。特にブログや SNS の影響は大きく、旅レポだったりちょっとしたワンショット、地元の人達が発信する情報など、かなりの頻度で目にしてるんじゃないかな。

実は私、沼津へは一度もお邪魔したことがないのですが、そうやって色んなものを仕入れていると、もう馴染みの街のように感じられるんです。実際には大して知りもしないくせに。おかしなものですね。見てると、話を聞いていると、素敵な街だなあって思うんですよね。もちろん Aqours の街としてもなのですが、そこらから離れたところでもそう思います。

どうやら私は、サンシャイン!! の物語を抜きにして、沼津という街のファンになっているようなんです。「推し」という言葉は自分にはそぐわなくてあまり使ってないのですが、ここでは持ち出してきていいかも。具体的に何かをしているわけではないので心持ちだけですけど。笑

「実在性」

長々と脱線してしてしまいました。今回のお話に戻りましょう。

私、この番組は Aqours のコンテンツとして見始めたはずが、その構成上、沼津のものとして捉えたようです。好きなアイドルの番組ではなく、好きな街の紹介としてですね。

さて、その視点 "だけ" で番組を見たとき、ナビゲーターをやってくれている Aqours は、もう私の贔屓ではありません。私の好きな街で活動する地元のグループくらいの認識でしょうか。私のお気に入りの街にはそこを拠点とするアイドルがいて、彼女たちも自分の街を盛り上げようと頑張っているんだなって。

地元のアイドルと私。沼津という対象を好きな者同士。仲間がいるのって嬉しいですし、親近感がわきますよね。

で、それが Aqours だったのだとふと気づいたとき、今度は彼女たちをとても近くに感じて、本当にそこに居るかのように錯覚したんです。

普段彼女たちを眺めるときには、常に見上げる形になります。彼女たちはステージの上で、私は下に立ってます。そこには越えられない壁があり、おかげで彼女たちを輝かしい存在にしてくれつつも、距離を感じるのも事実です。前段で述べた二次元・三次元の話と似たものをここにも見てるのかなあ。向こう側の存在ってことですね。

それが気づけば今は一緒に沼津を応援する仲間です。隣に立ってくれているんです。

この、気がついたらステージの下に降りてきてくれてた事実(?)こそが、私の中で「彼女たちが本当に沼津に生きている」と信じる根拠となったようです。手が届かない向こう側の人のはずなのに、隣に居た!? それって実在することの証左だよねと。

ステージの上、ショーケースの中、ブラウン管*4 の中。キラキラしててとても美しいモノたちは、でも、手が触れられない位置にあるとツクリモノっぽく感じられるようにも思います。触れられる位置に来て初めて、形あるものとして実感できるんじゃないかな。

ここで不意に覚えた「実在性」は喜びでした。

重要なのはタブン、不意に、というところ。意識外のところにぽっと現れたから、彼女たちの「実在」を強く覚えたのでしょう。最初から意識していては、向こう側に見ているまま、触れられないままですから。

加えて Aqours をより近く感じたこともあって、柔らかな嬉しさが胸に広がったんじゃないかなあ。Aqours は居るんだぁって。しかもこんなに近くにって。

自身で考えてみて、そんな結論に達したのでした。

聖地

最後にもう一つ付け加えさせてください。

私はサンシャイン!! を通じて初めて沼津を意識するようになりました。そして知るうちに街そのものに惹かれ、街のファンにもなりました。おかげでと言うべきか、今回 Aqours から外れた視点で(も)番組を見ることができ、それが結果として Aqours の存在を強く感じさせたのですから、なんとも不思議なものだなと思います。

つまり今回の件は私が沼津に対して特別なおもいを持っていたからです。でもこれって、元を正せば沼津が「Aqours の街」だからなんですよね。

私がサンシャイン!! を知ったのは、劇場版の公開・上映が終わってからでした。追っかける形でも沼津をアレコレ知れたのは、アニメという主流の供給が途絶えてからも Aqours が、サンシャイン!! が、この街と強く結びついていたからこそでしょう。

アニメほど強くはなくても続いている各種コンテンツ*5、折につけてのタイアップはもちろん、地元からの発信。そしてサンシャイン!! が好きで、Aqours が好きで、沼津が好きな他のファンの方々の存在。おかげで私は沼津のことを色々と知ることができているのです。

遠くに居て一度も訪れたことがないながら、特定の街のファンになれるって結構すごいことじゃないでしょうか。いわゆる聖地として沼津が「Aqours の街」であってくれるおかげですね。

好きな作品と、好きな街。盛り上げようとする人がたくさんいてくれることを嬉しく思います。何もできない私ですが、気持ちだけでもその片隅に参加させてもらえていることに感謝して、このまとまりのない文章の締めとさせてください。I appreciate all of you!

I love Aqours, LoveLive! Sunshine!! and, of course, Numazu!

*1:サンシャイン!! の世界はアニメだけに限りませんけれど、簡便のためここでは代表とさせてください。

*2:雑誌の投稿コーナーなどでは我々とやりとりをしてくれていますが、あれはこちらから投げ入れたモノに対するリアクションです。彼女たちとっては、やっぱり向こう側だけで話が完結しているんですよね。わざわざこっちを覗きにきてくれているわけじゃありません。

*3:少し外れるのかもしれませんが、今回の動画の最後にも使われている「Find Our 沼津〜Aqours のいる風景〜」も良いですよね!

*4:表現が古いですね。今なら何と言うのでしょうか。

*5:ライブ等の三次展開も強いコンテンツですね。しかし、実在性云々の話がややこしくなりすぎるので、ここでは外させてください。