アニガサキ Ep8 "Shizuku, Monochrome"(英語字幕)感想

私にとって第 8 話は、読み込むたびより分からなくなるお話です。英訳が解釈の一助になるかと期待していたのですが――一部では理解が深まる一方で、逆にもっと複雑になる要素も見えてきたりして、やっぱり分からないというのが正直な感想かもしれません。今回どうしてもまとまらないので諦めた項目も二つほどあります。難しいですね。

I wish to wash my...

出典:アニメ「ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会」第8話

しずく: I wish to wash my Irish wristwatch. / 水馬(あめんぼ)赤いな。ア、イ、ウ、エ、オ。

しずく: Peter Piper picked a peck of pickled peppers. / 浮藻(うきも)に小蝦(こえび)もおよいでる。

しずく: Can you can a can as a canner can can a can? / 柿の木、栗の木。カ、キ、ク、ケ、コ。

(略)

まずはストーリーからは独立した単発ネタから。

しずくちゃんが教室でぼんやりと呟いていたのは、北原白秋なんですね。『五十音』という題らしいです。「あ行」から順に出てくる、四・四・五のリズムが楽しい詩ですよね。発声・滑舌の練習として使われているのをよく見かけるような気がします。*1

どう訳すのだろうと気になっていましたが、早口言葉が当てられていました。こっちでは「あめんぼ赤いな」が定番練習の一つなように、早口言葉が向こうのそれなんでしょうか。

ともあれ、"I"、"Can"、"She"、"Tom" と、各行に対応するようにメインになる子音を選んであって、考えてあるなあと。面白いですよね。

訳に関しては以上になります。それだけでは少々さびしいので早口言葉そのものにも一つコメントをしておきましょうか。

3 行目の "Can you can..." は私も以前から知っていたものです。最初見た時は何を言っているのか全くわからなくて、非常に混乱したのを覚えています。助動詞の can と、動詞の can と、名詞の can が混在してるから意味が掴み取りにくいのですよ!*2 たった 12 words の文なのに半分が can って、まったく。早口言葉ってそーゆーものですけどね。

せっかく例文を提示してくれているので、この機会に発音の練習をしてみてもいいかなと、ちらっと思ったのですが……。そもそもの滑舌があまり良くない私は舌を噛むのがオチですね。あかまきがみ、あおまきがみ、きみゃきぎゃみ。

Have / Need

出典:アニメ「ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会」第8話

璃奈: I have Ai-san. / 私には、愛さんがいた
璃奈: And Shizuku-chan needs... / しずくちゃんには……

  • have v [T] 20 have (got) sb with you if you have someone with you, they are present with you / Luckily I had a friend with me who spoke German. (ロングマン現代英英辞典〔6 訂版〕)

さてお話の方に入っていきまして、璃奈ちゃんのセリフです。

"I have two sisters." とかの have ですね。自分には家族や友人などが「いる」の have。

原文で璃奈ちゃんは「いた」とだけ簡潔に述べていますけど、これは喋り方のクセですね。意味合いとしては「いてくれた」でいいはず。特別な人がそばにいてくれるのってありがたいですよね。

そんな一文「愛さんがいた」が英語になると、"I have" と、文の主体が自分に切り替わるのが言葉の面白いところだと思います。

have が所持の動詞であることを意識した上で、この文だけを単純に反訳すると「私は愛さんと特別な関係を持っている」くらいでしょうか。日本語では場の状況(誰々が何々をしている)を参照しているのに対し、英語は関係性を重視しているんですね。

自分を主体とし、その自分を構成する要素の一つとして特別な人がいる、またはその人との関係がある、という考え方は素敵だと思います。

続く一文の need もなかなか素敵な単語です。原文には全く入っておらず、言外に匂わせてあるだけのものを上手に選んできますよね。

  • need verb to require sth/sb because they are essential or very important, not just because you would like to have them (Oxford Advanced Learner's Dictionary 9th edition)

日本語の「必要」と同じく、とても重要でそれがないと困るものを欲する、ですね。しずくちゃんは、自分ひとりではどうしようもなくなっています。だから今、引っ張り上げてくれる人が求められてるわけです。

この後半の語義説明がまたいいですね。ただ持ちたいからだけの理由で手元に置こうとするわけじゃない、ですか。ワイワイやるのも確かに楽しいですけど、友だちってそれだけじゃないですものね。今の彼女たちのシチュエーションにぴったりの説明だと思います。

こんな機会でもなければ、have や need なんて基礎的な単語を辞書で引くことなんてありませんでした。調べたら調べたで発見があるものなんですね。勉強しなきゃ。

I thought we were friends!

出典:アニメ「ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会」第8話

かすみ: I thought we were friends! / 私としず子の仲でしょ

このエピソードで一番唸った訳かもしれません。英語の表現はこうなるんですよね。

原文はいかにも日本語らしい言い回しです。かすみんは「二人の『仲』」だと強く主張するものの、具体的にどんな仲なのかを話していません。「悩みなどを打ち明ける間柄(になりたい)」と言いたいのが伝わるから、わざわざ示す必要がないんですよね。

以心伝心などともよく言われます。日本語ネイティブは基本的に(ほぼ)単一文化の中で生活をしているため、ネイティブ同士だと必然的に考え方・感じ方に共通する項目が多くなります。相手の考えていることが把握しやすいんですよね。都合、明示しなくていい事柄が多くなる。それどころか、情緒が絡む場面でははっきりと口に出すことを野暮ったいとさえ感じ、やんわり包んで雰囲気で伝えて済ませようとします。*3 多分日本語の特徴の一つなんだと思います。

翻って英語ではしっかりはっきり言わないと伝わりません。引用部を反訳すると「友だちだと思ってたのに」ですかね。

日本語で「私たち友だちだと思ってたのに」なんて言っちゃうとニュアンスががらっと変わりますよね。心を開かせたい訴えではなく、ただの非難になってしまいます。でも英語はこれくらいじゃないと届かないし響かないんだなあ。ふわっと包んでそっと手渡す文化に慣れ親しんでいると、面食らう場面かもしれません。

対比させてみると実に興味深いですね。原文のセリフでは「親友である」認識の共有が前提になっており、かすみんはそれを再確認しただけです。一方訳文では、自分がどう感じている(いた)かのみを伝えています。相手の考えなんて分かるわけがないし、こちらも言葉にしないと理解してもらえない、ということでしょう。

私も英語を勉強してきて、意味だけならなんとか分かるようにはなってきました。が、時々こういった訳を見つけては、英語を話す際のマインドセットの部分は全然だなあと実感させられます。

Everything about you

出典:アニメ「ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会」第8話

かすみ: The fact that you're surprisingly stubborn and obstinate... / 意外と頑固なところも、いじっぱりなところも
かすみ: And the fact that you're not actually that confident... All of that! / 本当は自信がないところも。全部

(略)

かすみ: ...but I love everything about you, Shizuku Osaka! / は、桜坂しずくのこと大好きだから!

  • everything [代] 1 a 《…から…まで》あらゆること[物]、なにもかも(皆)、万事 (ウィズダム英和辞典 第 3 版)

かすみんの発破は続きます。放送時から思っていましが、ここのセリフは原文も重めですよねえ。

まず、しずくちゃんをフルネーム呼びするので、かなり改まっているのが感じ取れます。*4 そしてそれ以上に大きいのが「私」です。「かすみん」じゃない一人称は、忘れた頃にひょこっと出てくるのを見つけますけれども、いつもドキッとさせられるんですよ。*5

言い方次第では軽く流されかねない、友人に向かっての「あなたが好きだ(あなたを受け入れる)」も、この真摯さでかすみんのおもいの丈が響きます。真っ直ぐ。青春ですね。

それを踏まえてか、英訳でも love の目的語が you ではなく "everything about you" になっているのがいいですよね。(一般的に使われるフレーズではあります)

every は「全部」ですけれどもひっくるめて全体を指す語ではありません。構成する個々を取り上げる単語です。"everything about you" で「あなたに関するアレもコレもソレも、例外なく何もかも」ですね。

この every が、直前の「しず子も全部出してみなよ」と例を挙げる話の流れを引き立てるんですよ。stubborn がんこ、obstinate いじっぱり、not confident 自信がない。しずくちゃんが渋い顔をして聞いていたポイントも、かすみんにとっては愛すべき点ってことなんですよね。「ダメなところ」さえも余さず好きとは、こちらも大した告白でしょう。

直接的な訳ではないけれど、他の箇所を利かして同じようなニュアンスを伝える。対訳を読んでいると時々そんな場面に出くわします。見かけるたびに素敵だなあと感じるのです。

We were different / I was ... anxious

出典:アニメ「ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会」第8話

黒の少女: My song won't reach anyone. / 私の歌は誰にも届かない
黒の少女: Do you remember when we were little? / 子供の頃のことを、覚えてる?
黒の少女: We were different from the others. / みんなと少しだけ違う
黒の少女: It might seem trivial, but I was always anxious. / ただそれだけのことだったけど、私はいつも不安だった

さて、ここからはしずくちゃんのお話です。

黒の少女は白の少女に語りかけます。ややこしいのは、二人が同一人物だから「あなた」が「私」だし、「私」は「あなた」でもあることです。くわえて使われている人称代名詞が基本的に「私」であること。

対話の形でもって心の内を表しているのなら、白の少女に向かっての呼びかけは本来「あなた」が妥当です。糾弾する相手をここで「私」と呼ぶのは不思議な感覚を呼び起こさせますね。

英訳も原文に倣って "I" で表していましたが、子供の頃のことは "we" を使っていまして――。

面白いことに、最初の状況提示は "We were different"(私たちは違っていた)なのに、 "I was ... anxious"(私は不安だった)と主語が切り替わっているんですよね。ここから読み取れるのは、不安に思っているのが黒の少女一人だけってことです。*6

そうなんですよね。白の少女は他人から嫌われないために作り出した仮面でした。今、嫌われる「かもしれない」原因を黒の少女という形で心の奥にしまいこんだのですから、白の彼女が不安に思う必要はありません。「すごく楽になれた」と言ってましたね。*7

実は最初 "we" を見かけた時には意図がわからず戸惑ったのですが、よくよく考えて納得した次第です。本当に細いところまで訳してありますね。情報量の多いセリフに感心します。

Refused to cange

出典:アニメ「ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会」第8話

There was something in my heart / 胸の奥 変わらない
That refused to change / たったひとつの思いに
And I finally realized it / やっと気付いたの

  • refuse [動] 1 [refuse to do] 〈人・物が〉(どうしても)…しようとしない (ウィズダム英和辞典 第 3 版)

挿入歌からも唸った訳を一つ持ってきました。

「変わらない」の訳に "refused to change" はすごく良いですね。ええ、胸の奥にあったその「思い」は、「結果として変わっていない」だけじゃないんですよね。

小さい頃からそこにあったのに、彼女はずっと見ないふりをしてきた。無いものとして過ごしてきた。だからそのうち本当に無くなってしまったり、別のカタチに変わってしまったとしても、おかしくはなかったはずなんです。

でも「思い」はそれを是としなかった。ずっと自身に無視され続けながらも、変化を拒み断固としてそのままであろうとしたんですよね。彼女が逃れることのできなかった「思い」とは、それ程強く、しっかりしたものだったんです。

ところでこの文だけを見ると、変わることを拒絶し続けたのは「思い」そのものだと読めます。しかし「思い」とは黒の少女のことでしたから、つまりは白の少女と同一だったはず。見ないふりをしていた彼女こそが、その「思い」を絶対に変えたくなかったのかなあと。英文を見てそんなことを考えました。

「歌いたい」思いは彼女を彼女たらしめる根っこの部分です。無意識にでも大事にしていたのなら、これから幹や枝葉が「成長」するための頼もしい土台となってくれるに違いありません。

For who I am

しずく: I'm going to do my best in this role, so please come see the show. / 精一杯演じますので、ぜひ見に来てください

  • ぜひ【是非】[二] (副) (1) (下に「ください」「たい」など依頼や願望を表す語を伴って)あることの実現・実行を強く希望する気持ちを表す。どうしても是が非でも。
  • ね (終助) (3) 相手の同意を求める気持ちを表す。 (スーパー大辞林 3.0)

締めにしずくちゃんのインタビューの変化を拾っておきましょうか。

冒頭の方、原文では「見に来てください」の目的語が抜けています。ここは主役に抜擢された話の流れで読者へのメッセージを求められているので、普通ならば「役を演じる私」だとか「私の演技」を見てと答えたいところです。ですがしずくちゃんの答えは、そこにある終助詞「ね」が曲者に思えたんですよね。

「見に来てください。」と言い切るなら自分の希望を述べているだけ。しかし、そこに同意を求める「ね」が加わると事情が変わります。最初から相手(=読者)も興味を持っている前提になるんじゃないかと思うんですよね。全員がしずくちゃんのファンならば話は別ですが、(主に学園生という括りはあるものの)読者は不特定です。「自分の演技」を "見てね" と誘うには少し無理があるのではないかと。このあたりの彼女の心情が掴みづらかったんです。

英訳を見て納得しました。なるほど "come see the show"(劇を見に来てね)と解釈できるんですね。主役を張っていても、全体としての「劇」ならば「私」からは少し外れます。気楽に勧めたのも頷けますね。ここはインタビューに答えているようでいて答えていなかったんですか。

そう捉えると語尾の「ね」が、いかにも彼女らしい言葉に見えてきます。意識してかは定かでありませんが、嘘を演じている彼女は自分に焦点を当てさせたくなかったのでしょうから。共感を求めるはずの語が逆に薄っぺらさを感じさせるとは、なんとも皮肉なものですけどね。

出典:アニメ「ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会」第8話

しずく: Please see me for who I am. / 本当の私を見てください

  • for [前] 21 【認識】…として、…であると、…に

それが、エピソード最後の受け答えでは「私を」としっかり答えるようになっていましたね。

原文、「見て」の目的語「本当の私」も深い言葉でしたけれども、英訳も負けていません。"for who I am" は「あるがままの私として」とか「今の私を」くらいに受け取ればいいのでしょうか。

この英語は反訳しようとすると「私は何者であるのか」なんて命題に関わってきそうなんですよね。"I am Shizuku" で済ませられそうにない、ずっと哲学的な話になりそうです。現在の私の英語力および読解力ではちょっとお手上げ……。

そう言えば、璃奈ちゃんがかすみんと相談していた時に、

璃奈: I'm sure this Shizuku-chan is Shizuku-chan, too. / きっと、今のしずくちゃんしずくちゃんだよ

と言っていました。これも難しいセリフですよね。

このお話は全体を通して「自分」を考えさせられるエピソードだったように思います。

*1:他には「外郎売」とか、早口言葉なら「歌うたい」とかでしょうか。

*2:文法ミスがあると、Grammarly が指摘していました。笑 でも can が二つ続いてるのは typo じゃないよ!

*3:「月が綺麗ですね」などは最たる例ですね。

*4:英訳もフルネームになっていますね。向こうでも、ファミリーネームまでつけて名前を呼ぶのは姿勢を正す場面らしいです。親が子供を叱りつける時など、だとか。

*5:これは一人称に限った話ではなく、特徴的な喋り方をする娘は皆んなですね。ここぞの時に喋り方を変えてくるのがズルいと思います。鞠莉ちゃんとか。笑

*6:こはちょっと確信が持てないのですけれども。わざわざ "we" を提示してから "I" に切り替えている以上、二人の意識に違いがあると見るのが妥当だと考えます。

*7:そして、それではやっていけないと露見したのが今回のお話でした。