何が飛び出してくるかわからない <ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会 2期 第5話「開幕!ドリームランド↑↑(*'▽')」感想>

前話 C パートで今回へのヒキが描写されていましたが、そこからしてもうすでに面白いとかズルくないですか??? 机に向かって思案するしずくちゃんを見るだけでヤバそうな予感がひしひしとしていました。タブン私が毒されているからだとは思いますが……。笑

アニメ「ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会 2 期」第 4 話より

朝の一幕から

OP から CM が明けて、本編 A パートはお二人さんちの朝の様子から始まっていました。マンション外観からベランダへ視点が移るのはもう見慣れたカットです。

が、見慣れているからこそ、画面が切り替わった瞬間に歩夢のおべべの違いが目に飛び込んできますよね。あ、パジャマなんだ!って。

アニメ「ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会 2 期」第 5 話より

これだけで休日だとわかるし(お団子のない歩夢も良いものです)、しずくちゃんから相談を受けたところでアバンが切れていたことをふまえれば、侑ちゃんは今日これからデートに出かけるんだろうなとか、なのに歩夢と居るところから描くってことは、この後の騒動が想像できそうだなあとか。他にも、学校のない日でも朝の挨拶は交わすとかホント仲が良くて羨ましいなあとか、わずかな描写しかないのに情報量が多くてお気に入りのシーンです。

案の定、そこから歩夢の尾行が始まるわけですけれども――。

せつ菜に見つかったリアクションに始まって、慌てて言い訳を探すさま、そのまま彼女を味方につけようとするところがなんとも歩夢らしいなと思います。逆説的かもしれませんけど、歩夢の性格の良さが見えるようです。いつも品行方正だからこうして何かを誤魔化すことに慣れていないのだろうし、味方を得て勢いづくあたり、自分に対しても後ろめたさを解消する口実が欲しかったのだろうなあ。楽しい逸話ですね。

自由に

さて、今回のお話はしずくちゃんが起点でしたね。新しいユニットとその演出案に悩む彼女は頼りになる先輩に相談を持ちかけてました。電車の中では、

しずく
やっぱり! 侑先輩ならわかってくれると思ってました

賛同を得られて、瞬間口調が柔らかくなるのが可愛らしい。ギリギリ「崩れてる」とは言えない程度なのが好きです。

勢いに乗ってしずくちゃんは歩夢さんの野獣役も提案していましたが、

アニメ「ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会 2 期」第 5 話より
ああ。わかる、わかる……

侑ちゃん、あなた歩夢の何を想像しました!?

しずくちゃんにしても配役の意外性で取り上げてみただけ、ですよね……? 歩夢が持つ特定の一人に対してだけ向けられる激しさ、普段は一切ナリを潜めている激しさを、もし嗅ぎとっていたのだとしたら、桜坂監督も非常に良い嗅覚をしていらっしゃいますね?笑

ともあれ本題に入りましょう。エピソードでは後半になりますが、嵐珠と侑ちゃんのやりとりを聞いて、しずくちゃんは自分こそが責められるべき人間だと思ったようです。「自分のやりたいことを周りに重ねて」と彼女は言いますが、実際のところどうなんでしょう。

しずくちゃんは遊園地で歩夢やせつ菜を観察していましたよね。これは周りの人たちに対して日常的に行っている習慣だと思われます。主には芝居の勉強のためでしょうが、単純に、自分の持っていないものを備える人たちが魅力的に映るからなのもあるんじゃないかな。

で、お話やお芝居が好きで想像力も豊かなこの少女が、ただの観察で終わらせるわけがありません。カップリングや各種シチュエーションなど、妄想はとどまるところを知らないでしょうね。そして実際にやれたら面白そうだからと、妄想が現実になろうとしているのが今回のお話でした。

しずくちゃんはもうここで一つ壁を越えてるんですよね。以前だったら妄想までで留めていたところを、なんとか形にしようとはたらきかけています。

何も生み出さない自己満足だとは本人がそう思っているだけ。歩夢とせつ菜にはちゃんと新しい可能性を提供できてますよ。せつ菜が「やってみないとわからない」と乗り気だったのは、その可能性がどう結実するかを見てみたかったからでしょう。何かが生まれる予感が欠片もなければそんなセリフは出てきません。

ですがしずくちゃんの心情としては違うようです。彼女にとって今回の提案は妄想の延長でしかなかったのかな。なまじ想像力が豊かなために、実現するとしてもその様子が想像できてしまうんでしょうね。妄想がただ実体を伴ったくらいの印象しかないようなそんな様子です。妄想をちょっと豪華にしたかった、くらいの望み。

すぐ後に判明しますが、ここに勘違いがあったように思います。まず、役者は自分とは別の人間で、そうそう予想した通りには動かないということ。今回はほとんどが自由なアドリブでしたからなおさらです。

自由であることは、即、役や劇を損なうことを意味しません。予想できないからワクワクするし、ときには期待以上のものが飛び出してきたりもします。(この辺りが A・ZU・NA の魅力なのかなって思います)型にはまるばかりが演出ではないと 2 人は教えてくれます。

そしてもう一つ。しずくちゃんは自分自身を考慮に入れていませんでした。ある意味当たり前の話で、もとが人間観察から妄想が始まっているため、観察対象から外れる自分はその世界の中に入ってこないのでしょう。

アニメ「ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会 2 期」第 5 話より

妄想で済ませるならそれでいいのかもしれません。自分勝手にお話を紡げる世界では、意志を持った自分がそこに加わっても面白さが増すとは限りませんから。物語に入り込むのを楽しいと感じる人もいるでしょうけど、観客のままでいたってかまいません。

でも実際に演じるとなると、すごくもったいない話に思います。演技もいけるしずくちゃん本人がそこに入り込めたらオーマイティにはたらけるのですから。

役の幅は無限大で、相手方の反応を見ながら演技ができる。何が飛び出してくるかわからない世界で自分も一緒になってお話を作り上げていける。妄想では決して得られない楽しみじゃないでしょうか。2 人の演技を見てウズウズしているしずくちゃんはかわいらしかったです。

結果しずくちゃんが飛び入りで加わって、即興で仕上げたお芝居は素敵なものに仕上がっていましたよね。

野獣の姿という呪い

その劇中劇の中身も見ていきましょう。桜坂しずく脚本プラス 3 人のアドリブは非常に興味をそそる内容でした。

特にせつ菜。せつ菜の役どころは野獣で、王子が呪いをかけられ変身した姿です。

一人の中に二つの属性がある役を他でもないせつ菜が演じてるのが面白いんです。最初は、菜々ちゃんとせつ菜の二面性を示しているだけかと思ったのですが、劇の内容を見るにもう少し深い意味があるように感じました。捉え方はどう取ってもいいんでしょうけれど、1 期のせつ菜に重ね合わせて見るのが一つの形かなと。

野獣(せつ菜)
フッ、どうせ私のことが怖いのでしょう。こんな恐ろしい姿なのですから

「どうせ」という自棄の言葉が悲しく響くところから劇は始まってました。野獣は自らの姿を嫌悪します。獣である自分は人に危害を加える存在でしかない。その気が全く無くても可能性があるというだけで怖がられる。そうやって疎外感を覚えれば、元凶である自分の恐ろしい姿を否定したくなるのは自然なことなのかもしれません。

どうあっても他人を傷つけてしまうからと自ら身を引くさまは、1 期第 3 話のせつ菜を思い起こさせます。やりたい事を求めた結果他人と衝突してしまい、自分の大好きを表現しようとしたことがそもそもの間違いだったと結論付けていた菜々=せつ菜。当時の彼女は、王子=野獣と同じように、「せつ菜」さえ否定すればコトが丸く収まると思いたかったようですが――。

思うんです。もしあの時せつ菜が身を引いたままだったとして、その場合最終的に「せつ菜」って無かったことにできたのだろうかと。

劇中で「せつ菜」に対応するのは「野獣の姿」だと思うのですが、これはかけられた「呪い」でしたよね。元の王子の姿に戻りたくとも、それができないから彼は苦悩していたのでした。菜々=せつ菜にとっての「せつ菜」も同じで、消せなかったんじゃないかと想像するんです。

「せつ菜」とは「私の大好き」の象徴でした。

人は意識的に何かを選んで好きになるのではありません。気がついたらもう好きになってしまっているものです。好きって、空から降ってくるようなもの、避けようのないもの。向こうから勝手にやってきて心を占め、こちらの行動を縛るという意味では、確かに呪いのようだとも言えます。

菜々=せつ菜は「せつ菜」を無いものとし、ただの菜々に戻ろうとしていました。しかしここで捨てようと思って捨てられるのは、自分の大好きを解き放つ手段としての「せつ菜」だけでしょう。「せつ菜」をもう表舞台に出さないと決めたのは大した決断でしたけれども、それで彼女の中の大好きがなくなったわけではありません。身の振り方を決めたあと、後生大事に衣装をしまい込んでいたのを見てもわかります。

つまり捨てられたのはガワの部分だけで、肝心の「せつ菜」の中身は依然として彼女と共にあったということ。ひとたび好きを見つけてしまった、いえ、好きに "見つかってしまった" 菜々=せつ菜は、もうただの菜々には戻れないんですよね。

劇中では、悪しき野獣は心を改められなかった人間の成れの果てだと言われていました。野獣の姿を受け入れられなかった人たちが、やがてその力を無差別に振るう*1 ようになってしまう。それはもっとも嫌悪していた行為のはずなのに、悲しいことです。もし、せつ菜が「せつ菜」であることを認められないままだったら、彼女はどうなってしまっていたんでしょう。

幸いにも歩夢演じる少女が野獣の心を動かします。せつ菜にも侑ちゃんが言ってくれました。そのままのあなたでいいよと。おかげで彼女は自分を受け入れて、「せつ菜」でもできることを見つけていきます。

王子=野獣は悪しき者を倒すためその力を振るいます。人を傷つけるばかりだと思っていた獣の力は、使い方をちょっと変えるだけでいかようにも有効活用できるんですよね。彼は野獣であることを受け入れたから気づけました。せつ菜の大好きだって同じことです。自分本位に好きを叫んでいては、他人の大好きとかち合ってお互いを傷つけ合うだけでしょうが、その事実を受け入れた上でなら。

好きは呪いのようなものだと述べましたけれど、それはごく小さな悪い一面を切り取っただけです。

扱いさえ間違えなければ、自分が浸って楽しいのはもちろん、他人と共有してより大きな喜びを得ることができます。当然ですけど何かを好きでいるとは基本的には喜ばしいことなんですよね。

少女(歩夢)
私たちがここに居るのは、そもそもあなたの魔法がきっかけなんだもの

獣の姿は最初「呪い」と表現されていました。それが最後には「魔法」と呼び改められていたのが私の心に強く響きました。

気になること?

劇ではせつ菜が役とシンクロしすぎていてそっちばかりを考えてしまいますけれど、歩夢にも少し目を向けてみましょうか。彼女の演じるのはとある少女でした。

少女(歩夢)
実は私も傷ついた人を癒してあげたい

アドリブに入った途端、歩夢が「癒やしてあげたい」などと言い出したときには、"つまらない方のヒーラー" を思い浮かべてしまい、いきなり気が抜けそうになりましたが……。いやいや、まさかね。ウインクの超絶ヘタクソなダークエルフがニジガクに通っているとは思いたくありませんよ?*2

冗談はさておき。ここの歩夢で取り上げるべきは「実は私も」の部分でしょうね。野獣がやりたいと言ったことを受け、秘めていたおもいを自分も表に出してもいいのだと少女が知った様子には、せつ菜のステージに感銘を受けていた歩夢の姿が重なって見えます。

やりたいアクションが自分の内にとどまらず、外に影響を与えるモノなのも、歩夢の転機に重なると言えるのかなあ。歩夢があの時言い出したのは可愛いものを今でも身につけていたいではなく、発信する形で表現したい、でしたものね。

野獣(せつ菜)
そうして旅に出た私たちは、悪しき野獣を次々に倒していきます
少女(歩夢)
しかし、少女には気になることがあったのです

そして引っかかるのは少女の言う「気になること」でしょうか。歩夢が何を考えてこのアドリブを放り込んだか、それこそが気になるのですが。笑

スクールアイドルとして今は順調に過ごせていると思われる(野獣は倒せていますからね)ので、それ以外となると侑ちゃん関連しかなさそう? まあ、大好きな幼馴染が頑張ってるのは知ってて、でもそこまでうまくいっていなさそうで、しかもそれをあまり打ち明けてくれないとなれば気がかりではありますよね。

夕暮れの一幕

その気がかりさんはというと、帰る途中に歩夢を観覧車に誘っていましたね。

昼間乗れずにガッカリしていた歩夢にはとても嬉しい誘いだったんじゃないかな。侑ちゃん、休止中なのを知って歩夢が肩を落としていたことにちゃんと気づいてくれてるんですよねえ。私が歩夢だったら絶対に惚れ直していると思います。そのイケメンさはぜひ見習いたいところです。

アニメ「ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会 2 期」第 5 話より

またそれとは別の理由でも、侑ちゃんが歩夢を誘ったのはなんだかわかるように思います。

皆んなと目一杯遊んで、特に最後には素敵なものも見せてもらって、後は家路につくばかり。家に着けばもう「いつも」に戻ってしまうけれど、楽しかったこの一日を簡単に終わらせてしまうのはもったいない気がする。もちょっとだけでいいから続いていてほしいと願う時に、付き合ってくれる幼なじみはありがたい存在です。

結果的には、ハレとケの間のこの緩衝地帯のような時間は、気持ちを整理するのにもちょうど良かったのかもしれませんね。日常に帰ってしまったら「いつも」の忙しさに追われて、おもいが薄らいでしまいかねませんから。

QU4RTZ と Diver Diva が出している結果。加えて今日は A・ZU・NA の 3 人の新しい可能性を目の当たりにして、発破をかけられたように感じてることでしょう。

苦しんでいるらしき現状ですが、自分でも何かカタチにしたいと思う気持ちを、今一度確かなものとしたいですよね。気心知れた相手とゆっくり過ごせる空間はその一助となったのではないかと想像します。

アニメ「ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会 2 期」第 5 話より

そのまま ED へと移っていくのを見て、とても静かなエピソードの締め方がなんだか心地よいなと感じた第 5 話でした。

*1:実際そんなふうには説明なされてませんから、私の勝手な解釈であることを記しておきます。念のため。

*2:スミマセン、これを書いているタイミングでたまたま見ていたものでして。