アニガサキ Ep4 "The Uncharted Path"(英語字幕)感想

愛さん回の第 4 話はなんと言っても puns(ダジャレ)ですよね。この Blu-ray が届くのを心待ちにしていました。*1

各ネタに関しては項目を設けてあるのでそちらに譲るとして、先に触れておきたいのは「サイコーハート」についてです。日本語の歌詞はダジャレが散りばめられた、いかにも愛さんの歌らしい楽しいものになっていました。

英訳も期待をしていたのですが、さすがに言葉遊びを盛り込むのは難しかったのか、訳は意味を追うのみになっていたようです。少なくとも私は何も気づけませんでした。ですが――私が言うのもおこがましいですが――全体的に訳はとても素直で、スッと胸に入ってくる素敵なものになっていたと思います。挿入歌の細部については言及しないので、簡単な感想だけそう述べておきまして。

それでは本題に入っていきましょうか。例によって日本語の第 4 話感想は以下のリンクです。

All of us

出典:アニメ「ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会」第4話

エマ : I want all of us to hold hands and dance in a giant circle. / みんなと輪になって踊りたいなあ

  • みんな → みな【皆】[二](代)その場にいる(その事に関係する)すべての人を指して(すべての人に呼びかけて)言う語。 (新明解国語辞典 第 7 版)

「みんな」と言うだけでは何を指すのかはっきりしないのが問題、でしょうか。なんとなくですが、第 13 話で子供たちと踊っていたように、私は「ファンのみんな」だと考えていました。でも英訳だと「私たち全員(=同好会のみんな)」になっていますね。

私が勘違いしているだけの場合も往々にあるのですけれど、こうしたズレを見るたびに言葉って不思議だなと思います。

言葉とは人が思いや事象を伝えるために作られたもの。個々の語義は送り手と受け手でちゃんと共有できているはずです。*2 ですがどの言葉も意味には幅を持つため、たとえいくら重ねようとも、100 % 余す事なくは伝えることができないのですよね。だから解釈の違いが起こったりしますし、それが元で誤解が生じたりもします。

しかし逆に、その曖昧さがあるおかげでコトの本質を浮き彫りにできたり、またははっきりさせないままに表現できたりすることもあるわけです。

このエマちゃんのセリフは、言葉がもつ意味の、そんな幅を享受しているだけなのかもしれませんね。

彼女が意図するところは「多人数で(わいわいと)」だけではないでしょうか。つまり具体的な対象を見ていないように思います。もしかすると思い浮かべているかもしれませんが、それでも「なんとなく」でしかなくて、今はこだわる点じゃなさそうな。それくらいの、はっきりしない「みんな」*3 じゃないかなあ、と。

私の受け取り方と英訳とのズレを見ながら、そんなことを思ったのです。

Anymore

出典:アニメ「ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会」第4話

果林 : I just didn't want to see Emma sad anymore. / 私はエマの悲しむ顔が見たくなかっただけよ

  • anymore [副] 1(主に米)【否定文・疑問文で; 通例文尾で】もはや、これ以上、さらに(any longer) (ウィズダム英和辞典 第 3 版)

いつもはクールな果林さんが照れる姿は可愛らしいですね! ……いえ、そこではなくて。

照れ隠しに放ったであろう果林さんのこのセリフは、まるっきりのごまかしじゃないですよね。皮相的には「頼みを断るような野暮はしたくない」としか言っていませんが、その実、もう少し深いように思います。

多分、発言の底にあるおもいは、ゴタゴタがあったばかりの同好会で親友が今度こそ楽しくやれているか。エマちゃんが悲しんでいるのを見て問題解決に尽力した果林さんとしては、(スクールアイドルに興味が出てきた云々は別にしても)新しくなった同好会がどんな感じなのかは気になるはずです。

ここで、自分から出向きはしないけど、呼ばれたのを幸いと様子を窺いに行くところが、果林さんの心遣いなのかなと思うんですよね。本放送のときも、そのさり気なさを好ましく見ていました。

そして今、英訳を見て気になるのはそこに加えられた "anymore" です。

英文では最後にフワッと置かれて文を強調するはたらきをしています。セリフの意味合いは、上記した背景そのままですね。でも日本語の方のセリフだと anymore「これ以上」って単語は付け足すことができない気がするんですよ。

  • 私はこれ以上エマの悲しむ顔が見たくなかっただけよ。(一例)

この言い方だと、以前は悲しんでいたという事実にもフォーカスが当たります。結果として同好会を責めているように聞こえませんか。

たしかにそういった事実はありましたが、もう解決した問題です。今ここで蒸し返す話ではありません。誰の得にもならないのに、そんな言い方をしないと思うんですよね。

どうなんでしょう。日本語で考えるから、付け加えられた anymore が余計な仕事をしているように感じるんでしょうか。英語なら入れちゃってもおかしくないのかな。

意味はバッチリでもニュアンスまではちょっと掴みきれなかった一語です。

Totes

出典:アニメ「ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会」第4話

愛  : I've never seen Rinari so excited before. I'm totes having fun, too! / こんなにウキウキなりなりー初めて見たよ。愛さんも楽しい

  • Totes | A shorter more convenient form of the word: totally. This word is most commonly used by teenage girls. (Urban Dictionary: Totes)

辞書に載っていない単語って困りますよね。大抵は読み飛ばしても問題ないんですけど、精読しようと思っている作品だとそうもいきませんし。

昔なら(気軽に尋ねられるネイティブがいなければ)大辞典を引いても見つからない言葉は諦めるしかなかったんでしょうね。でも便利な世の中になったものです。重要度が低くて辞典に載ってなくても、またはまったく新しくできたばかりの言葉でも、ネットに当たれば大体ヒットするんですから。(Urban Dictionary さんにはよくお世話になってます)

この "totes" もスラングの一つなのかな。予想していたとおり*4 totally の省略形でよかったみたいですね。

「主にティーンの女の子が使う」とは、まさに彼女たちのための言葉です。いいですね!

いちいち調べずともこういったニュアンスを感じ取れるレベルになると、物語をもっとぐっと鮮明に読めるんだろうなと憧れます。遠いでしょうが、ま、目標は高く掲げていきましょうか。バンガリマス。

Gonna run

出典:アニメ「ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会」第4話

愛 : Thanks, Emma-chi! I'm gonna run now! / ありがとう、エマっち。走ってくる!

このすぐ後に "run down that uncharted path"(未知なる道へ駆け出す)というフレーズが出てくるんですよね。それを踏まえると、ここのセリフ "gonna run" は、訳が素直なままにダブル・ミーニングになっているのかなと思います。

愛さんは何をどう始めていいか悩んで、いま一つの答えを見つけました。これからスクールアイドルという、まだ見ぬ新しい道へ向けて走り出します。

そうですね。彼女がここで実際に駆けて行く様子こそが、そのメタファーになっていますよね。だからわざわざ言葉で表す必要もないのでしょう。原文の「走ってくる」は、せいぜい「先に行くね」程度の意味しか持っていない*5 ように聞こえます。

ですが、英訳するにあたって意味をもう一つうまく含ませるのは、これはこれで綺麗だなと感じたのでした。

Puns

ダジャレのような言葉遊びを翻訳するのは、頭を悩ませる作業なのでしょうね。本筋に関わらない冗句なら、全く別のものに置き換えてしまってもいいと思うのですが――アニガサキでは対象語句はもちろんのこと、文全体の意味も極力原文に一致させるように工夫して訳を当てているようで、その苦労が偲ばれます。

Ride solo / Nine

出典:アニメ「ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会」第4話

エマ : We should probably get going. We don't wanna ride solo. / そろそろ走ろっか
エマ : Nein, right? Nine's when we're supposed to start. / 9時だし、もう行く時間だよ

えー、そんなことを言いながら、初手の "ride solo" から理解がさっぱり追いつかないのですが……。

"solo idols" からのダジャレだから、ここでも solo を使っているのは分かります。でも私の力だと「そろそろ行ったほうがいいかも。ひとりで ride したくないよね?」くらいの意味にしか読み取れなくってですね。

動詞に ride を使っているのも不思議だったので、成句とか慣用表現なのかもと調べてみましたが、何も見つけられなかったのですよね。検索してもバイク等の一人乗りがヒットするばかりです。うーん。気になって夜しか眠れないので、どなたか教えてはいただけませんか。

一方で "nein" はとても分かりやすいですね。

いえ、私は独語の知識がないので Google 先生に頼りっきりなのですけど。「いいえ」の意味でいいのかな。直前のセリフが否定文なので、その確認・念押しの "no?" ですね。読みは「ナイン」。英語の nine と同音みたいです。

ここは多分力技なんだろうなあと思いました。笑 同じスイスでも、エマちゃんがドイツ語圏出身だったら完璧でしたね。

Unknowns

出典:アニメ「ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会」第4話

I can finally run down that uncharted path! / 私は未知なる道に駆け出していける!
A path filled with so many unknowns! / ミチだけに!

こちらはちょっと自信がないのですが、"unknowns" は "run down" に係っていると見ていいのですよね。音がかなり近いですし、アクセントの位置も同じになるはず。このくらいになると puns と言うよりは rhyme(韻)でしょうか。綺麗ですね。

私にとって問題なのは、これが音で聞くものではなく字幕のセリフだということです。勉強不足・センス不足で、目で追っているだけではなかなか気づけませんでした。*6 ここは何かが仕込んであるのを「知って」いたから、わざわざ探しにも行きましたけど、素なら……無理、かなあ。

Second-years / Jogging / Idoly

出典:アニメ「ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会」第4話

最後に愛さんのダジャレ 3 連発をどうぞ。

愛 : Ayumu! Your cuteness is only second to your voice. / 歩夢、最高に可愛いね
愛 : You know, because we're second-years! / 高 2 だけに

  • second 1 [形] 3 (重要性・大きさ・質の点で)《…に》次ぐ、《to》 (ウィズダム英和辞典 第 3 版)

まずは second から。ですが、これは……ひねりもなく同じ語ってだけでいいんでしょうか。your, years。voice, vice-?。他にそれっぽいものも、あるような、ないようなで、よく分かりませんでした。難しいですね。

愛  : Jogging just makes your emotions run high! / 走るのってランランするよね
愛  : Because you know, jogging! / run だけに

  • run [動] (自)9 [run + 副] (比喩的に)<感情などが>高ぶる(副は high) (ウィズダム英和辞典 第 3 版)

ジョギングをすることで気持ちが high になる。この run は jog に見事に係っていますね。原文の「ランラン」よりよほど。笑

ところで動詞 run には連続的でかつ主に移動的な動きを表すイメージを持っていたのですが、感情の変化も高い方に向かってなら使うんですね。不勉強でした。

心には何か動力が積んであって、動作し続ける事で高い状態が維持できる。ネイティブにはそんな風に感じられるのでしょうか。それとも心は流体的な動きをする? うーん。私が心に置くならドローンとコンプレッサー、どっちがいいかなあ。

愛  : We're the School Idol Club so we can't just wait idoly by. / 次は同好会でどこ(どうこう)行こうかい

  • idly [副] 1 怠けて; 何もしないで; 当てもなく (ウィズダム英和辞典 第 3 版)

idol を同音の idle に掛けたダジャレですね。idol は idle ではいられないんだよなあ、とは私もよく思います。

本来使うべき idly は idle の副詞形です。idol を同じように変化させて idoly ですか。

反訳は「私たちはスクールアイドル同好会なんだから、ダラダラ待ってちゃだめだよね」くらい。つまり後半は「(待ってるんじゃなくて)どこかに行かなくちゃ」ってことですね。変則的ではありますが、原文の意味を残してある訳だと思います。腐心した跡が見えますね。

ただ、idol → so → not idly と英語側の論理に無理が生じてしまっているのだけがハテナ?となりました。ここは so の代わりに but で繋いじゃダメなんでしょうか。

Infantily childish

出典:アニメ「ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会」第4話

歩夢 : Yu-chan's sense of humor has been infantily childish ever since kindergarten. / ゆうちゃん、幼稚園の頃からずっと笑いのレベルが赤ちゃんだから

  • infinitely [副] 非常に; 大いに; 限りなく
  • infant [名] [C] 1 (乳)幼児、(歩き始める前の)赤ちゃん (ウィズダム英和辞典 第 3 版)

4 話ももう終わりだと思っていたら、予想もしていなかったところから一つ飛んできてましたよね。歩夢さんあなたもか?! 愛さんのパートが済んで気を抜いていたので吹き出してしましたよ。見事に一本取られました。

In addition to mentioning puns in the anime...

さて、アニメでダジャレを拾ったついでに、スクスタの方も私が気づいたものをまとめておきます。

ダジャレは面白くはあるのですが、くだらないと感じる前に、なぜその語が使われているかを不思議に思って、まず考え込んでしまいます。あるいは、吹き出すよりも先に、組み立ての上手さに感心してしまうんですよね。素直に楽しめるのはまだまだ先のようです。

*1:I received some comments from English speakers that they are wondering what Japanese people thought of Ai's puns in English. I hope they'll be satisfied with this entry. 日本語話者が愛さんのダジャレ(の英訳)をどう思うのか気になる、といったコメントを、ネイティブの方に戴いていたように思うのですが、読んでくれているでしょうか。

*2:辞書を引けば最大公約数的なモノが載ってますね。私もよくここで引用しています。

*3:子供のよく言う「みんな持ってるから買って!」の「みんな」と同じかも? 違いますかね。

*4:偉そうに言っていても、原文がそこにあるのでカンニングしているようなものです。

*5:先陣を切ってソロで活動(即席ライブ)をやっているのですから、「先に行く」もダブル・ミーニングになりますね。

*6:耳で聴けばすぐに判るのかと問われれば、そっちはそっちで聞き取れない・文の意味が理解できない問題がございまして……。