アニガサキ Ep6 "The Shape of Smiles(⸝⸝>▿<⸝⸝)"(英語字幕)感想

第 1 話から思っていましたが、英語字幕で気付くことってやっぱりあるものですね。基本的に同じことが書いてあるだけなのに、ちょっと切り口が変わっただけで見えるものがある。それまで見落としていたものが浮かび上がってくる感触は、他にはなかなか代えがたいもののように思います。一種の aha experience でしょうか。できるならば、そういった補助無しでも諸々を把握したいものですが。

You're

出典:アニメ「ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会」第6話

色葉 : I saw your School Idol Club PVs! Ai-senpai, you're awesome! / スクールアイドル同好会の PV 見ました。愛先輩、最高でした

(略)

今日子: You're so cute, Ayumu-chan! I'm totally a fan now! / 歩夢ちゃん可愛くて、私ファンになっちゃいました

憧れの相手を見つけ、駆け寄り、おもいを伝える下級生たち。

原文と英訳とを見比べていて面白いなと思うのが、同じように「良い」を伝えるのに、日本語が過去形なのに対し、英語は現在形になっているところです。これは褒める対象の違いが原因でしょうね。

日本語で褒めているのは物(PV)です。そうですね。「何か」を見て「その人は良い」と感じた場合、それを本人に伝えるときには、大抵その「何か」を褒めますよね。特に目上の人に対しては、「あなたは良いですね」という言い方はあまりしないように思います。直に褒める行為が、上からの目線を感じさせるのでしょうか、忌避する気持ちが起こるのは多分私だけじゃないはず。そうではなく、相手が作り出した「何か」を褒めることで、間接的に「あなたは良い」を伝えてるんですよね。

色葉ちゃんのセリフは多分「愛先輩、(PV は)最高でした !」*1 でしょう。PV を見たのは過去の話だから当然「でした」となります。今日子ちゃんも同じく、「(PV の)歩夢ちゃん(が)可愛くて」を受けるから「ファンになっちゃいました」なのでしょう。

一方で、英語では直接的に人を褒めますよね。何かを見て「その人は良い」と判断したのは過去の話だけど、今現在だってその人の良さは変わらないはず。だから "you're awesome" だし、"You're so cute" と。

このあたりは言葉の違いというより、文化の違いかな。

ただ、厳密には日本語と英語が違う意味なのに、同じ文に、つまりは全く同じことを伝えているように感じられるのは興味深い現象に思います。これは「相手を褒めたい」真意が一緒だからでしょうね。

それぞれの言語には、表現するのに適した独自の形があるってことなのかもしれません。言葉はその背景にある文化や慣習などと不可分で、それらに引きずられる面があるのでしょう。

余談なのですが、ここではもう一つ気になることがあります。

色葉ちゃんは愛さんのことを先輩呼びで、今日子ちゃんは歩夢のことをちゃん付けで呼んでいます。

愛さんは部室棟のヒーローとして名が知れていましたし、1 年生ズから見れば同学科の先輩でもあります。多分 PV を見る前から知っていて、もともと自分たちの世界の中の人という位置づけなのでしょう。一方で歩夢は学科も違いますし、知らなかった先輩なのでしょうね。自分たちの世界の外に居た人です。

この二人をネットで知れば、「知ってる先輩が素敵なアイドルをやってた」と「可愛いと思ったアイドルが学校の先輩だった」になるはず。そんな風に背景を想像するなら、「先輩」は変わらず「先輩」のままでしょうし、「アイドル(=ブラウン管の中の人*2)」は親しみを込めて「ちゃん」と。

呼び名が自分の中で定着してしまうと、実際に対面した時にもそのまま出てしまうのでしょうね。だからここで二人を呼ぶ敬称が違ってくるのも納得できる話に思います。この差異は良い描写だと思うんですよ。

自分たちの世界の内の人には敬意を表わす「先輩」を使うのに、外の人は気安く「ちゃん」で呼ぶ。近いはずの対象に、形式的にはより遠い接し方をすることになりますが、この距離感は日本文化特有のものではないと思います。

訳では、ここもそのまま "-senpai" と "-chan" が使われています。非日本語話者にも、敬称の差でこういった背景を感じ取ってほしいところですが、はたして。

I will / I'm going to

出典:アニメ「ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会」第6話

色葉: You guys should totally do a concert! / ライブやってくださいよー

(略)

璃奈: I will. / やる
璃奈: I'm going to do a concert here. / 私、ここでライブやる

同級生ともっと近くありたい、友だちになりたいと願っていた璃奈ちゃんは、彼女たちがライブを望んでいることを知りました。今が契機と、自らのライブを切望するのは自然なおもいでしょう。スクールアイドルの道に入ったのは、人と繋がることを期待してでしたものね。

ここで「やりたい」ではなく、「やる」と言い切る形を取るのが、意志の強い彼女をいかにも感じられるところに思います。俯いて「やる」とぽつり零してから、顔を上げて「私、ここでライブやる」と宣言。カッコイイなあ。

英訳を覗くと will と be going to が使い分けられていました。未来を表わすこの二つの表現の変化は素直にいいなと思うんです。*3

will はその場で決めたことを、be going to は未来にやろうとしている行動や予定を示します。最初の "I will" で「じゃあ、やってみようかな」、次の "I'm going to do a concert" で「私はライブをやる心づもりだ」くらいのニュアンスでしょうか。

つまり「やる」とつぶやいた時にはただの思いつきだったライブは、次の瞬間には、璃奈ちゃんの中でもう決定事項に変わっているんですよね。

意思疎通能力に問題がある(まだ残っている)と思っているためか、彼女はあまり積極的に自分のことを喋ろうとはしないように見受けられます。でも内ではいろいろ考えていていて、伝えなくちゃいけないことはハッキリと口に出そうとする。そして、発する言葉に真摯であるように思います。これは重要な非言語コミュニケーションの一つである表情が、自分には乏しい事実を理解しているためもあるでしょうね。結果として、発言は考え抜かれたものになることが多く、そこには重みが感じられます。

確かにライブは今ここで思いついたことなのかもしれません。ですが、「やる」と言ったからには「やる」璃奈ちゃんの強い意志を、その "I will" から "I'm going to" への変化に垣間見た気がします。

Never

出典:アニメ「ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会」第6話

璃奈: Ever since I was little, I was never able to express myself, so I never had any friends. ……(略)…… So when I got into high school, I never thought that my days would be filled with so much excitement. I never thought I could change so much. / 私、小さい頃から表情出すの苦手で、友達いなかったから。……(略)……だから、高校生になって、こんなに毎日がわくわくするなんて、思わなかった。こんなに、変われるなんて、思わなかっ

璃奈: I'm really grateful for all of you. / みんなに、すごく感謝してる

ない、ない、と続くこの璃奈ちゃんの独白ですが、ぽつぽつと話す彼女の喋り方のクセも相まって、日本語で聞いていたときも重い話だとは思っていました。でも英訳に never がずらっとあるのを見て、圧倒させられまして。

日本語の「ない」は助動詞で、文節の中心にはならない付属語なため印象が薄くなりがちになるんでしょうか。それを英語で never にすると、同じ否定でも文の持つ雰囲気が随分強くなるように思います。(そもそも never がただの not よりもキツい語だからというのもあるのですが)

まず、never は副詞で、文修飾を担っているからでしょうね。そして、この語さえ取っ払ってしまえば、ほぼ語形変化なし(any が変わるくらい)で肯定的な意味の文が成り立つために、文章の中での否定語の邪魔者感がずっと強く感じられます。各文の頭に否定語が並んでいるのを見ると、その「無」の圧力を感じずにはいられません。

璃奈ちゃんはそんな世界に居たんですね。だから "過剰にある" 「無」を取っ払ってくれた、そのきっかけになってくれた「みんな」に対する感謝がある。"really grateful" にその深さが窺い知れます。*4 沁みますね。

璃奈ちゃんがとつとつと話す日本語をバックに、画面下では never が次々流れていくのを見ながら、そんなことを考えたのでした。

そして――。

Never (again)

出典:アニメ「ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会」第6話

璃奈: I... / 私は……
璃奈: I... can never change. / 私は、変われない

璃奈ちゃんはしっかりとした手応えを感じていたはずなのに。ここで再び顔を出す never はズシンと来ますよね……。

Had us worried

出典:アニメ「ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会」第6話

璃奈: I'm sorry for not coming to practice. / ごめんね。勝手に休んで

愛 : Yeah. You really had us worried. / ホントだよ。心配したんだぞ

  • んだ [一] 各助詞「の」+指定・断定の助動詞「だ」の口頭語的な変化。
  • の (六) 〔「…のだ」「…のか」の形で〕相手を説得したり自分自身が納得したりする場面で、理由・根拠などを述べることを表す。
  • ぞ [一] (二) 〔対等(目下)の者に対して男性が〕自分の考えを強く主張することを表わす。 (新明解国語辞典 第七版)

愛さんのとても柔らかい、労る言い方と言うべきか、村上さんの優しい演技と言うべきか。すごく好きです。

「んだ」も「ぞ」も強いトーンの言葉ですよね。あなたが心配させているその事実を取り上げて、相手をなじる色が出る言葉に思います。字面だけで言えば、たとえば「心配したよ」などと比べると、かなりキツく感じるはず。

皆んなに心配をかけている自分の非を、璃奈ちゃんがちゃんと理解しているなら、心配させられていた側がそれ以上責める必要はないのかもしれません。ですが本人の罪の意識、心配をかけてしまったバツの悪さは、相手からの罰を受けないことには、簡単に無くなるようなものではないでしょう。

「あなたは悪いことをしたんだよ」という責めの句は、だから禊になるんだと思います。ありがたい言葉ですよね。

これをナチュラルにやってそうなところが愛さんらしいと思うんですよね。凄いなあ。

……というようなことを考えたのは、実は英訳を見てからでした。日本語を聞いたときは、なんとなく良いなとしか思ってなかったのです。"we were worried"(私たちが心配した)ではなく "you had us worried"(あなたが心配させた) となっているのを見て、うん、このセリフは璃奈ちゃんにワザとぶつけるためのモノだよね、と初めて思い当たりました。

そうですね。ぼんやりとでも感じたことがあるなら、やはりそこには何かしらの理由があるのですよね。別の切り口(英訳)で気づくのも悪くないですが――。

そこに何かが埋まっていると言うのなら、最初に感じた微かな感触を、そのまま打ち捨ててしまっては勿体ないのかもしれません。もう少し大事にしてあげたいものですね。

Weaknesses / Strengths

出典:アニメ「ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会」第6話

かすみ: The best idols are able to turn their weaknesses into their strengths. / ダメなところ武器に変えるのが一人前のアイドルだよ

  • 武器 (二) その人の持ち合わせる、優位な立場を得るための有効な手段となるもの。 (新明解国語辞典 第七版)

日本語で聞いたときも好きだったセリフです。

まず、欠点や短所ではなく「ダメなところ」という言い方が実にかすみんらしいなと思うんですよ。意味するところは同じでも可愛らしい表現ってありますよね。ネガティブな雰囲気を極力排除したいと考えていそうな、その言葉のチョイスが好きです。あと璃奈ちゃんを励ますこのシーンには、直接的でない柔らかい表現はよりマッチしますね。

そして、美点や長所ではなく「武器」。こちらは少々物騒な言葉ですね。笑 武器は道具です。道具とはただそこにあるだけでは駄目で、使って初めて意味をなすモノですよね。それも使い方次第でその効果はいか様にも変わる。自分の個性を、ほしい結果を得るために上手く活用する様を表すのに、武器というのはぴったりな言葉に思うんですよ。

さて英訳は "weaknesses"、"strengths" と、対義語がストレートに使われていました。それらを目的語に取る動詞に "turn" が使われているのがいいですよね。ここでは into があるので性質を変える意味で使われてはいますが、turn は前後や表裏があるものをクルッとひっくり返す意味を持つ動詞です。

weakness と strength は表裏一体で、意識の持ち方ひとつで簡単に入れ替わることができる。そのことが示唆されていると私は感じました。原文とは方向性は違いますが、こちらも素敵な表現ですね。

Today's Kasumin

出典:アニメ「ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会」第6話

かすみ: Eek! Pwease forgwive wme! / ゆぅしてくだふぁいー(許してください)

ぷうぃーず、ふぉーぐぃぶゅみー。好き。

*1:または「(PV の中の)愛先輩(は・が)最高でした!」。

*2:表現が平成以前ですね。

*3:中学で初めて未来の表現を習った時、この二つは交換可能だからとお互いに書き換える問題をやらされた記憶があるのですが……。今からでもあの問題を破り裂いてやりたいです。

*4:"grateful for" は物や行為に対する感謝です。ここは「みんなが与えてくれた全て(色んなもの)」に感謝、ってことでしょうか。