アニガサキ Ep7 "Haruka, Kanata, and Beyond"(英語字幕)感想

英語では、兄や姉に対してでも名前呼びが一般的なようですが、遥ちゃんが彼方ちゃんを呼ぶのは "Sis" になっていましたね。やっぱり「お姉ちゃん」という響きはいいものだと思うんですよ。また彼方ちゃんの方も "Haruka-chan" 呼びで、さほど年の離れていない "my precious little sister" に愛情を持って接しているのが、よく分かるようになっています。

姉妹間に限らず、さん・ちゃん・先輩・あだ名・呼び捨てなんでもいいのですけれど、呼び方はその二人の間柄を示してくれるので、大事にしたいのですよね。英語でもそのまま使ってくれるのは、だから嬉しく思います。

Ai am

出典:アニメ「ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会」第7話

愛 :Okay, Ai am gonna go all out! / よーし、愛さんも気合入れちゃおっかな
愛 :You know, because my name is Ai! JK! / アイだけに、なんてね

  • JK : just kidding / joking

まずは本筋と関係のないところから。愛さんのダジャレ再びです。

愛さんは、一人称が「愛さん」なところが、英語に翻訳するときの利点(?)だと思っています。本来「私が~」と言うべきで訳が "I'll" などとなるところを、彼女の場合は「愛さんが~」としゃべるので、そのまま "Ai'll" とすればいいんですよね。自分を名前呼びする雰囲気ごと英訳できるのは強いです。*1

実はですね、この英語を見たとき、本来のギャグとは違うポイントでクスッとしたのですが……。

  • Me : Just kidding? Oh, yes! Because she's a JK!

うーん、こんなので喜んでいるようでは、やっぱり私にはギャグのセンスが無いと言わざるをいえません。これは日本語ベースですから、面白い面白くない以前の問題ですものね。常識的に考えて?*2

Eats them all

出典:アニメ「ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会」第7話

エマ: Make sure you have plenty of cookies, too. / クッキーもたくさん食べてね

果林: Yeah, before Emma eats them all. / そうね、エマが食べ過ぎる前に

英語って大げさに表現しますよね。エマちゃんがいっぱい食べるから「皆んなの分が少なくなる」を、「全部なくなる」とまで言ってしまうんですから。*3 ただこれはあくまで冗談ですから、少し行き過ぎているくらいの方が、おかしく思える面はあります。

日本語でも、この場で「エマが全部食べちゃう前に」と言うのが不自然だとは思いません。しかし……「食べ過ぎる前に」と比較すると、ちょっと意地が悪く聞こえるかなあ。「全部」は、さすがにさもしく感じられるかも。この辺りの塩梅は難しいですね。

さて、日本語原文と英訳に関しては実はこれくらいで、ここに触れたのは別の理由があります。前の感想では拾わなかったネタを少し入れさせてください。

意地が悪いというならば、人の悪癖――とまでは言えませんね。食べることが好きなだけですから――をからかうこと自体が、もう、意地が悪いと言えるのかもしれません。でもそれくらいのちょっとした意地の悪さなら、許容できる関係が二人にはあるんですよね。気安さが羨ましいです。

ですが、疑問に思うことが一つあります。隣にいるエマちゃんが好きなものを好きなように食べるのを見ても、果林さんは何も感じないんでしょうか。

体型維持のために、自分を律することができる果林さんは、本当にすごいと思います。が、いくら食べても太らない友人に対して、やっかむ気持ちを持っていてもおかしくないと思うんですよね。ここのからかいには、ちょっとくらいは妬みが含まれているんじゃないかなあ。

とは私の邪推です。そんな事を考えてしまうのは、私がそういう人間ってだけなんでしょうね。

もちろん、果林さんがついからかいたくなっただろう気持ちも、純粋に分かりますけれどもね。お客さんに勧めている当のエマちゃんが、クッキー両手に頬張っている姿は、実に微笑ましいですもの。笑

出典:アニメ「ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会」第7話

脱線ついでに、体型がらみで余談をもう一つしておきましょう。某所での話なのですが、骨格診断をベースに各メンバーの姿を考察している方がいたんですよ。

興味深く読みました。果林さんは骨格ストレート(全体に厚みのある立体的な体型)、エマちゃんはナチュラル(手足が長く、しっかりとした体つき)の見立てだそうです。アニガサキはそういったところも力を入れて描いているみたいですね。

All of you and my sister

出典:アニメ「ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会」第7話

侑 : So, what did you think of us? / 今日は見てみてどうだった?

遥 : Oh, right. All of you and my sister looked like you were having a lot of fun. / あ、はい。お姉ちゃんも皆さんも楽しそうでした

  • 「姉」の敬語表現 〔丁寧語〕*ふつう、他人に対しては、身内である自分の姉について、「(私の)お姉さん」などという敬語表現は使わない。「『ごきょうだいは?』『×お姉さん(お姉ちゃん)が二人おります→○姉が二人おります』」 (明鏡国語辞典 第二版)

遥ちゃんが彼方ちゃんを呼ぶときは「お姉ちゃん」ですよね。本人に向かってだけでなく、同好会メンバーと話すときでも。

遥ちゃんは礼儀がしっかりしてそうなので、対外的には「姉」と呼んでいてもおかしくなさそうです。ですが、本人の年齢と、そこが同年代しか居ない緩い場であること、あとは姉妹の仲の良さなどを考えると、一般には子供っぽいとみなされる「お姉ちゃん」呼びも悪くないのですよね。アウェイで多少かしこまっている状況でも子供っぽくあるのは、若い彼女の魅力を高めこそすれ、品位を落とすことはないように思います。

さて、ここのセリフですが、例によって英訳が逆順になっているのを見て、初めて気づきました。原文は「皆さん」より先に「お姉ちゃん」を挙げていましたね。こちらは子供っぽいのとはまた違う気がします。

遥ちゃんは同好会の見学に来てますけれども、かすみんが言っていたような敵情視察などではなく、「私が知らないお姉ちゃんの姿」を知りたかっただけでした。だから質問されてぱっと思い浮かぶのが「楽しくやっていた姉の様子」なのは必然。聞かれた質問は具体性を欠いていましたから、「お姉ちゃん」がまず口から出てきたとしても仕方がないでしょう。(むしろ、よく同好会全体にまで言及できたものだと感心します)

特に重要ではないセリフにも、こうしてちらりと背景が見えるのは嬉しいものです。

この演出は、まず侑ちゃんの質問がキモですよね。ここもまた、目的語が落とせる日本語ならではの仕込みでしょう。何について聞いているかが曖昧だから、答える側は意図を汲み取りそこなって、その応答に心の内が透けて見えます。

ですが、英語では多分 "of us" と、具体的に聞かざるを得ないんでしょうね。対応する返事も当然「みなさん」ベースになるので、遥ちゃんの '揺れ' が作れませんか。ちょっと勿体無い場面ですね。

Work hard

出典:アニメ「ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会」第7話

遥 : I've been so worried that you might pass out from working too hard. / 私、お姉ちゃんが忙しすぎて倒れちゃうんじゃないかって心配で

(略)

彼方: I'm sorry I made you worry. I'll work even harder... / 心配させちゃってごめんね。彼方ちゃん、もっと頑張るから

  • hard [副] 1 一生懸命に、骨を折って、苦労して、必死に; やっと、かろうじて (ウィズダム英和辞典 第 3 版)

さて、英訳に絡めつつ話をまとめようとすると、あっちとこっちから引っ張ってくることになって、少々わかりづらいのですが。まずは姉妹の口論から入りましょうか。

あれもこれもと忙しそうにしている姉が心配になった遥ちゃんを、なんとか安心させたい彼方ちゃん。でも手持ちのカードが他になくて、「頑張る」を切り続けるばかりでしたね。

手札がたった一枚で、トランプ(切り札)でもない。なのにそれで勝負できると思っている、思い込もうとしているのですよね。いつもならゆったりと構えていて、視野も広そうな彼女が、忙殺されて余裕がなくなっているのが分かります。トンチンカンな受け答えにしがみつく様は、悲しくも見えました。

「忙しすぎて」を主張する遥ちゃんに、原文では「もっと頑張る」で返していて、これでも十分厳しいなあと思っていたんですが、英訳はもっとひどい状態になってましたね。

実際には、間にもう少し問答が挟まれているので分かりづらいですが、"too hard" を気に掛ける相手に "even harder" って返しちゃダメでしょ、彼方ちゃん。そりゃあ妹さんも怒りますよ。

Don't understand

出典:アニメ「ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会」第7話

遥 : You just don't understand, Sis! / お姉ちゃんの、わからずや

  • 分からず屋 物事の道理をわきまえない人。また、頑固で柔軟性のない人。 (スーパー大辞林 3.0)

遥ちゃんが言葉を尽くしても姉にまで届かないのは、前提となる立場の認識の違いが問題でしょう。遥ちゃんはお姉ちゃんを対等に見ているけど、彼方ちゃんの方は、守ってやらなくちゃいけない被保護者としか捉えてない。遥ちゃんはまずそこを指摘して、対等だと納得させる必要があります。できていないから、理を説いているはずなのに(自分の方に理があると確信しているのに)お姉ちゃんは一切聞こうとしないのです。

ここでは姉への心配が勝ちすぎてしまっているようですね。大事な人が今にも倒れそう。それも自分のせいで。ともなれば、落ち着いて考えてなんていられないかも知れません。

ですが、伝えたいことを適切に言語化できず、癇癪を起こす形で飛び出していく様子からは、やはり少し幼い印象を受けるように思います。子供が親に反抗する姿そのものですものね。*4

さて、「分からず屋」を和英辞典で引くと、obstinate person(頑固な人)、unreasonable person(道理をわきまえない人)などと出ていました。他には stubborn(強情な)も使えそうな形容詞です。ですが、直訳形も取らないし、これらの形容詞さえ使わないところがこの訳の妙だなと思うんですよ。

日本語で「わからずや!」と言い捨てるやり方が効くのは、これが体言止めだからです。名詞で文を終わらせることで、ガンコで話を聞かない相手であることが強調され、話し手がそこに不満を持っていることがより顕になるんですよね。

それを "you're so obstinate!" などと訳すと、意味は確かに正しくても、セリフの持つニュアンスが違ってきます。お姉ちゃんのガンコさを指摘するのが、遥ちゃんの目的じゃないですものね。それよりも、不満の元である「分かってほしいのに!」という感情をそのままぶつける形に変えるほうが、確かに彼女の心情を表すのに適しています。

また、姉妹のすれ違いは、お互いのことを思ってはいてもそれが独りよがりで、どちらも相手を理解しようとしていなかったことに起因していました。キーワードになる understand をここに入れると、仲直り後の彼方ちゃんのセリフとちゃんと対になるので、その意味でも悪くないですね。

彼方: I'm really sorry that I didn't understand you, Haruka-chan. / ごめんね、遥ちゃんのこと分かってなくて

My dream

Whether it be my part-time job five days a week, or me cooking... / 週5日のアルバイトも、お料理を作るのも
If it means that I get to see my precious Haruka-chan's smile... / 世界一大好きな遥ちゃんの笑顔が見られるなら
...bring on the world. / どーんと来いだよ

  • なら [一](接助)その事柄の実現を認め、または想定することを表わす。

最後と絡めるために話を一番最初に戻しまして、まずはアバンを。

第 9 話までの各個人回では、アバンの主目的は舞台や人物の設定です。冒頭、彼方ちゃんのモノローグは、ほぼゼロから積み上がる情報*5 なので流しがちですが――しっかり仕込みが入ってるんですよね。

「遥ちゃんの笑顔」の実現が想定できるから、(本人の自覚は薄そうでしたが実はかなり大変な)アルバイトや家事を頑張れる。

原文には「なら」という短い語が最後にちょこっと付くだけですけれども、訳は頭から "If it means" と分かりやすくなっています。英語はこういうところ、見落とさなくていいなあ。

彼方ちゃん側から見た今回のエピソードは、その想定が違っていたために起こったことでした。相手を思ってやっていることでも、それが相手方の気持ちを考えない押し付けなら、幸せになるはずがない。そんなお話でしたね。もちろん、仕込みは最後のシーンで回収されています。

出典:アニメ「ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会」第7話

遥 : Being a school idol while working part-time is going to be super hard. / アルバイトをしながらスクールアイドルって、やっぱり大変だよ?

彼方: Oh, I'm fine! / 平気平気
彼方: Because making my precious little Haruka-chan a school idol is also my dream. / だって、遥ちゃんがスクールアイドルをするのも、彼方ちゃんの夢なんだもん

なんやかんやあっても、結局彼方ちゃんはアルバイトを辞めないし、家事負担は減ってもおそらくゼロになるわけじゃありません。スクールアイドルを続けるのが大変なのは変わらないままです。それでもやっぱり「平気」だと言う、その理由こそがしっかり変わっていましたね。

Because、だって、一緒に夢を追いかけられるから。これなら大変さも乗り越えられるでしょう。本当にダメな時は、今度はお互いにフォローできますしね。

ここの英訳で目についたのが、彼方ちゃんが遥ちゃんを修飾する語に(precious はともかくとしても)little まであることです。これは原文には明示されていない形容ですね。little は、ある意味上から目線で使う名詞修飾語です。妹のアルバイトを認めないシーンが後にあったように、彼方ちゃんにとっての遥ちゃんは変わらず大事な大事な妹で、意思を尊重するようにはなっても、やっぱり庇護下に置きたい存在なんだなあ。

今回の出来事を通して変わったようでいて、彼方ちゃんはやっぱりあんまり変わってなさそう。相変わらず妹溺愛のお姉ちゃんを見て、笑顔になりました。

  • little 【(C)名詞の前で】(小さくて)かわいらしい、愛らしい;かわいそうな( (1)「小さい」という意味は比較的弱い (2)[形]の後に用いられ、優越感を持って愛情・嫌悪・同情などを示す【表現 コーパス】little の前に現れる主な[形] 話者の価値判断を表すものが多い) (ウィズダム英和辞典 第 3 版)

Tell me

"To Kana and Haru, Make sure to tell me when your next performances are!! See you later. Love, Mom" / 「かな、はるへ 次のライブは絶対に教えてね!! 行ってきます。 ♡母♡」

お家での様子が描写されていた今回のエピソードでは、近江家の家族構成も気になりました。

ママンの書き置きで、自分(母)側を表す代名詞が us じゃないんですよね。劇中でははっきりと描かれていないように思いましたが、やっぱり 3 人家族(少なくとも、あの家で暮らしているのは 3 人)なんでしょうか。

実はダイニング・キッチンにある写真立てと思しきモノが気になってるんです。ちらっと映るこの構図で見えにくくなっているのは、多分意味があるんだろうなあ。観葉植物で「隠れて」いますものね。……などと無駄な深読みをしております。勘繰りすぎですね。ハイ。

出典:アニメ「ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会」第7話

I seem like

最後に一つ、彼方ちゃんのセリフ全般に関して述べて終わりにします。

彼方ちゃんは普段の話し方がふわふわしているのが特徴の一つだと思います。独特の言い回しやトーン、ゆったりとした話すペースなどは、マイペース系と呼ぶにふさわしく、彼女特有の空気感を醸すのに一役を担っています。

トーンやペースについては、声(音)で表現されるものなので、字幕翻訳に際しては特に問題となりません。ここで取り上げるべきは言葉。言い回しですね。

ということで、目についたものを二つほど抜き出してみました。

出典:アニメ「ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会」第7話

彼方: She said she wanted to come see the School Idol Club because I seem like I've been having so much fun lately. / なんかね、最近の彼方ちゃんがとーっても楽しそうだから、同好会に興味津々なんだって

彼方: Pout all you want. I'm just happy I get to eat your cooking. / いいんだもーん。遥ちゃんのお料理食べられて幸せなんだもーん

  • pout (他) 1 〈唇〉をとがらす, 突き出す(out) (ウィズダム英和辞典 第3版)

「なんかね、」という話の切り出し方、「最近」を文修飾とせず主語に係る形にするところ。そしてこの文章の調子の中にどうして「津々」などと堅めの単語チョイスができるんでしょうね。「だもん」はさすがに子供っぽいですが、お姉ちゃんが甘えるこのシーンには、ばっちりに感じられるのが不思議です。

英語のニュアンスを正しく読み取れているか怪しいものですけど、私がいいなと思ったのは、太字にしたあたりです。

1 つ目の引用は、太字の単語を抜いても(動詞の変化は必要ですが)ほぼそのままの意味で文が成り立つんですよね。わざと回りくどい言い方を反映させてるみたいです。

"She said" と伝聞の形から入ることで、まずちょっと距離があります。(原文の「なんかね、」に相当)また、遥ちゃんは実際にここに来ているのに、話している内容は "wanted" とその前段階の意思の話ですし、自分のことなのに "I seem like" と遥ちゃんから見えた様子をそのまま述べています。

全体的に間接的な表現で、遠く感じられますよね。ふわっとした印象の、本当に掴みどころのないセリフになっているように思いました。実に彼方ちゃんらしい。

2 つ目。"Pout all you want" は「好きなだけむくれていいよ」くらいの意味合いでしょうか。「いいんだもーん」が持つ、己がエゴの許されることを理解している感じが上手く表されているなあと。

こうしてみると、伝えようとする内容以外にもセリフは様々な情報を持っていて、話し手の人柄や場面の状況などを我々に伝えてくれるんですね。

これらを訳に盛り込むのは難しい作業だと思うんですよ。翻訳者さんは凄いです。

*1:ここは動詞の形が変化する "be gonna" ではなく、私が 例に出したように"will" で良かったんじゃないかと思ったんですが、多分ニュアンスが違ってきちゃうんでしょうね。

*2:こっちの JK も日本語ベースですね。というか、もう古い言葉だったりしますか。

*3:アニガサキに限らず、対訳で時々こういった誇張表現を見つけては一人喜んでいます。

*4:そういえば手ぶらで飛び出してったけど、遥ちゃん、あなた持ってきた鞄は?

*5:媒体によって設定が違っていたりするので、私はアニメだけで考えています。基本的な性格等の、どの媒体でも共通だろうと思われる箇所は考慮しますが、「あそこでこうだったから」だけをベースにするのはナシの方向で。