闇から光へ <ラブライブ!スーパースター!! 第3話「クーカー」感想>

かのんちゃんの歌えない原因は大方の予想通りでしたね。聴衆を意識するとダメになるみたい。一度は手応えを感じたスクールアイドルも、これまで失敗してきた合唱・独唱と同様にお客さんに向かうのが仕事です。失敗できない舞台をひかえた今、どう克服していくのか。その視点でこのエピソードを楽しみました。

背負うもの

問題が生じて、すぐに恋ちゃんとの議論が入ったのはお話がうまいですよね。

歌えないかもという根本的な問題がある以上、やめる選択肢は確かに考慮すべきです。たとえ即却下することがわかりきっていたとしても。一度は議題にあげて、その逃げない意思を確認しておかなくてはいけないでしょう。

二人+ちぃちゃんだと、はっきりさせないまま話が進みそうな気がするんですよ。いえ、活動したいならまず出ないことには始まらないのですから、本人たちの側はそれで構わないと思います。が、その場合「それでも出る」ことの覚悟が持てないんじゃないかと。

スクールアイドルは少なからず学校の看板を背負っています。今回課されていた条件が妥当なものだったかはともかく、無駄にみっともない真似ができないことだけは真実です。不安要素を押して出場するのなら、その責任は感じておかなければいけないでしょう。万一「醜態」を晒した場合に、仕方なかっただけで済ませるなんてしてはならないと思います。

条件をクリアすることだけが頭にあって、二人にはその辺りの意識が培われていないように見えるんですよね。まあ、これは結果だけを求めた理事長が悪いのですが。

そこをキッパリと指摘できるのが、反対する立場にある恋ちゃんなのは、必然というべきか皮肉というべきか。面白い構図に思えました。

それにしても、恋ちゃんも気にかけてくれてるんですね。これって多分、様子のおかしそうな澁谷さんたちを見かけて声を掛けたとかでしょう? 理事長が認めたとりあえずの活動には口を挟めないのですから、放っておけばいいものを、気に入らない事についてわざわざ尋ねるなんて。恋ちゃんも物ずk、もとい、学園と生徒のことを本当に大切に思っているんですね。……二人とスクールアイドルに対するアタリはこの上なくキツいですけど。笑

二人のギャップ

かのん
私じゃなかったら
可可ちゃんもっと楽だったろうなあ

さて、かのんちゃんが歌えないのは、とりあえず仕方がないことだとしましょう。その前提で、デュオが現状をどう見ているかが問題です。二人の間に認識のズレがあるように思えたんですよ。気持ちの行き違いがあると言ったほうがいいかな。

かのんちゃんにとって歌えない自分は重荷です。刻限が迫っているのに大きな手が打てそうもない今、可可ちゃんのパートナーが「私じゃなかったら」と思ってしまうのもやむなしですね。*1 自分のせいで友だちの夢が潰れるかもしれない状況は耐え難いですから。

でも、そう。「友だちの」夢なんですよね。スクールアイドル活動ができなくなるかもとなったとき、心配するのがまず友人のことなんです。そりゃあ可可はそのためだけにわざわざ日本へやって来たのですから、賭けている物が違いますし、その元となる情熱の大きさだって容易に見て取れます。気にかけるのは当たり前。そして友人のために一生懸命になれるのは素敵なことです。ですがそれはそれとして、自分がアイドルをやれなくなるのは気にしないのかな、と。

心惹かれつつあっても完全にはハマっていないんでしょうね。コレじゃないと駄目、とまではなってない。歌の道への糸口を見つけたと、一度は思えてもすぐに見えなくなってしまったから、自分にとってのスクールアイドルが何なのか知れる機会がなかった。未だ歌うための選択肢の一つでしかないような印象を受けました。

スクールアイドルに特別性を感じていないから、自分のこととしては躍起になれないのかな。だから、出来ない自分に引け目を感じて、可可のこと優先になってしまう。

ですがその可可の夢は少し違うようです。

スクールアイドルをやりたいのは確かにそうなのですが、それだけに留まらないんですよね。かのんさんと一緒にじゃなきゃ嫌だと、実に欲張りさんです。

この 2 つ目の望みは彼女が再三口にしているのですが、それがかのんちゃんに上手く伝わってないみたいですね。

スクールアイドルそのものと同じくらい、可可はかのんに心奪われている。だから、たとえどんな素敵なアイドル活動ができようとも、隣にかのんが居なければもう意味がないのです。かのんちゃんの「私じゃなかったら」という仮定は、可可にはナンセンスなのですが……。

可可
クヨクヨしないでください
かのんさんが居てくれたから、可可は今頑張れているんです
  • くよくよ (副) スル 心を悩ませても仕方のないことにいつまでもこだわって、あれこれ心配するさま。くやくや。 (スーパー大辞林 3.0)

ところで可可のこのセリフは、言葉選びがちょっとマズいなと最初は思ったんですよ。「くよくよするな」は些事にとらわれている相手に掛ける言葉です。歌えなくて落ち込んでいるかのんちゃんに対しては無神経じゃないかなと。

でも少し言葉が足りないだけで、多分可可の本心なんですよね。きっとできると信じているから、今ちょっとくらい歌えなくても、それが大したことだとは思っていないのでしょう。

今の環境でなくても最悪アイドル活動はなんとかなります。*2  でも、かのんさんの代わりは居ないのだから、まずは落ち着いてほしい。そんな気持ちの表れなのかなと思いました。

通じ合う

二人の思いが通じ合ったのはエピソードの後半でしたね。

サニー・パッションがフェスに参戦するとなって、まだ可能性の残っていた成功の目が今度こそ無くなりました。

爆発するかのんちゃんに対し、再度思いを伝える可可は落ち着いていましたね。そしてもう後が無くなったからこそ、「それでもかのんさんと」という彼女の気持ちがやっと届いたのでしょうか。

ここでのかのんちゃんの変化はあまり大きくありません。スクールアイドルへの意識が変わったわけではありませんし、自分に自信が持てるようになったわけでもありません。ただ、「可可ちゃんが信じてくれる私」を信じてみよう。そう思えるようになっただけです。けれども、たったそれだけでも十分大きい意味を持つんだと思います。

友人の夢のために頑張るだけなら所詮は他人事ですが、友人が信じてくれる二人のためにならそれは我が事になる。可可の思いが届いたことで、かのんちゃんは同じ方向を向けるようになったんですね。これで一緒に頑張れる。

初めて対等の立場になったのかなと思いました。きっとこの辺りの意識の変化が呼び捨ての儀式に繋がってきてますよね。

桜舞う中で

クライマックスはもちろんライブシーンですが、その前にかのんちゃんが可可に手を伸ばし、「歌える」の合図を出しかけて、やっぱりためらうところから入るのが好きです。

気持ちは十分前を向いていても、体はそうそう簡単についてきてくれませんよね。今まで悩み続けていたことは、心の持ちようだけでどうにかなるようなモノではないよなあと思うのです。

可可は可可で震えていました。今後がかかる大舞台でパートナーの分まで頑張る必要があるとなれば、そのプレッシャーも大きいでしょう。さすがの可可もそうなりますか。彼女が初めて見せた弱い部分にある意味で安心しかけたのですが……。「大丈夫、大丈夫」って、コレ日本語じゃないですか!?

彼女の場合、本当にいっぱいいっぱいなら出てくるのは中国語のはずです。緊張で体が震え、喉は渇き、声はうわずりそうになっていても、そんな自分を見つめる余裕くらいは残ってるんですかね。頭のどこかには落ち着いていられる部分があると。

だから客席の光にも先に気づけるんでしょうか。「歌わない」カードを切れるかのんちゃんの方が状況的には余裕があるように思えたんですけど、唐可可、どれだけ強いんでしょう。すごいなあ。

さて、その光の海はとても綺麗で、彼女たちも目を奪われていましたね。ここで一つ面白いのは、二人の見ている光景は少し違うのだろうと想像できることです。

可可は元々はファンの側。客席でペンライトを振っていた人間ですから、ライブ会場がどういうものかは知っています。でもステージの上と下は別物ですよね。想像はできても、実際ステージに立って自らの目で見る光景は、全然違ったものになるだろうと思います。きっと感慨深いことでしょう。アイドルを最近知り始めたかのんちゃんにはない感覚ですね。

支えてくれるもの

しかしです。かのんちゃんはかのんちゃんでステージに立った経験ならあります。その視界が今回は見たことのないモノになっている。

出典:アニメ「ラブライブ!スーパースター!!」第1話

今までの彼女の「お客さん」は歌を鑑賞しに来ている人たちでした。歌の良さを楽しもうと、クオリティを期待して静かに待っている人たちです。

数には力があるんですよね。批判的な目でなくても、大人数にただじっと見つめられるのには威圧感を覚えます。彼女はその中でポテンシャルを発揮するのが苦手だったのでしょう。

ですが今はどうでしょうか。照明が落ちるトラブルの中、ペンライトの光が自分たちに合図をくれています。頑張れの声も聞こえてきます。

ライブは客の側も一緒になって盛り上げようとするところが、今までの彼女のステージとは明らかに違う点なんですよね。

出典:アニメ「ラブライブ!スーパースター!!」第3話

数には力があります。

以前は――敵だったとまでは言いませんが――遠くから見られて恐怖を感じていただけの群衆が、今は自分たちを応援してくれている。見える光の全てが味方で、自分たちを支えてくれる。気づけたのならさぞ心強いことでしょうね。もらえる勇気は計り知れません。

かのん
歌える。ひとりじゃないから

可可ちゃんが隣に居てくれるだけでは、残念ながら「その手を掴む」までには至らなかったんですよね。会場からの力を得て、初めて歌える確信が持てた。

第 1 話の「歌えた」は、よくわかんないけど出来ちゃっただけでした。だから、よくわかんないけどまた出来なくなった。

しかしこの「歌える」は違います。なぜ歌えるようになったのか、ちゃんと理由を把握できているように思います。だからライブの後には「歌えた」ではなく「やった!」が出てくるのでしょう。歌えるのはもう分かってて、後はそれをいかに最高のものに仕上げるかだけだったのですから。

仲間が居てくれるだけじゃなく会場全体が味方である。この気づきが、彼女ならではのスクールアイドルに繋がるのだろうと思わせるエピソードでした。

最後にもう一つ。

ここには冒頭に述べた「学校の看板を背負う」話が少し関わってくるように思います。背負う方はスクールアイドルの一面でしかなくて、その裏だってありますよね。活動基盤が学校だから、評判には注意しなくちゃいけないけれど、代わりにサポートが期待できます。

……いえ、結女の場合、学校からはちょっと厳しそうな雰囲気でしたけれども。でも生徒の側は行けるんじゃないでしょうか。新聞部で号外扱いされていたのは嬉しい限りでした。

スクールアイドルは、すぐ側で応援してくれるファンを獲得しやすいのですよね。一緒に盛り上がれる味方を得やすいのは、特にかのんちゃんにとってアドバンテージになるんじゃないかと思います。

*1:彼女、ここでは自分の夢に関して何も言っていないんですよね。歌えない自分をあまりにあっさり受け入れてしまっているように思います。喫緊の問題に専心しているだけだと解釈しましたが、もう少し己に対しての必死さも見たかった。

*2:実際転校を考えていましたね。半分本気だったように思います。