好きだと言えること <ラブライブ!スーパースター!! 第1話「まだ名もないキモチ」感想>

オープニングカットから素晴らしかったですね。口元のアップでギターを持っていることくらいしかわからないから、いやでも伸びやかな歌声のみに意識が向いて一瞬で引きこまれていきました。絵が引きに変わって制服が違うのに気付くも、もうそんなのが気にならないほど。本当に気持ちよさそうに歌っていましたね。

出典:アニメ「ラブライブ!スーパースター!!」第1話

落として始まる

出典:アニメ「ラブライブ!スーパースター!!」第1話
かのん
夢は新設された結ヶ丘女子高等学校の音楽科に進み、

そして夢を語るシーンからの受験失敗。気持ち良さそうに歌っていたのと全く同じ「画」を持ってくるなんて、上げた後の落とし方が残酷ですよ。そりゃヤサグレもします。

出典:アニメ「ラブライブ!スーパースター!!」第1話

入学式に向かうために家を出た後も、ヘッドフォンを押さえて「これで何も聞こえない」。外界を遮断する姿は、華やかさと賑わいのある街並みとの対比が際立っていました。

出会いたくなかっであろう元同級生のナリもまた、かのんちゃんにとっては残酷でしたね。自分も着たかった制服、でも着れない制服*1 が目の前にあるなんて。

ここで先程のお母さんとのやりとりが思い出されます。入学式の朝に「似合ってる」と声をかけるのはごく普通のことなのに、彼女の場合違った意味をもつと。どうしてこんなシナリオが思いつけるんですか。

新しい生活?と新しい出会い

この地に根付く音楽の歴史を、特に音楽科の生徒は引き継ぎ、大きく羽ばたいて――

理事長が一部生徒のみを尊重するとも取れる発言をしていたのはさすがに気にかかかるところですが、音楽に重きが置かれる場所なのは確かなようです。行きたかった高校の、でも行きたかったのとは違う学科へ。好きな歌を勉強できない彼女は何を思ってそこに通おうとしたんでしょう。

出典:アニメ「ラブライブ!スーパースター!!」第1話
かのん
新しいこと始めるのもいいかなって

「歌、続けるんでしょう?」と尋ねられてかのんちゃんは返します。入学式の様子を背景にした彼女の発言も、ここのセリフだけを切り取るならありがちな新しい学校生活です。ですが、やはり違う意味をもつところが物語の残酷なところだと感じました。好きなものを諦めるってことですものね。

出典:アニメ「ラブライブ!スーパースター!!」第1話
可可
歌がお好きなんでしょう
かのん
嫌いじゃ、ないけど

可可*2 からスクールアイドルに誘われてもその気になれない彼女は、でも、歌が好きなのでしょうと聞かれれば嫌いじゃないと答える。

畳みかける可可に押されて体ごと逃げかけていたのに、居住まい正して正面を向くんですよね。否定語の否定で言い方こそ消極的ですが、かのんちゃんの歌に対する姿勢がここに見えるように思います。嘘はつけないんだろうなあ。

ずっと後ろ向きな姿勢ばかりでしたけど、好きな気持ちがちゃんと残っているのを知れて安心しました。

階段を上る

あなたはどうなの
あなたもやりたいのですか、スクールアイドルを

物語のポイントとなるのが、恋ちゃんとの問答ですね。

ここで恋ちゃんは自分に向けられた矛先を逸らそうとしたに過ぎません。スクールアイドルはダメだと主張しているのだから、その理由を尋ねられた彼女には答える義務があるはず。「ダメだからダメ」で済ませておいて別の論点で相手を攻撃し、話をすり替えるのは褒められた態度とは言えません。批判されるべきだと思います。しかし――。

出典:アニメ「ラブライブ!スーパースター!!」第1話

この質問は、かのんちゃんにとてもつらく当たるものだと思うんです。

さっきまでは同じ普通科の生徒に「一緒に歌をやろう」と勧誘されていたわけですが、それとは話が違いますよね。今度の相手、恋ちゃんは自分が行けなかった音楽科に所属しています。初対面でもそれが判ってしまうのが悲しいところ。

「あなたは歌いたいの?」という単純な問いが、相手と自分の違いを見せつけられているようで、好きな歌で今まで失敗してきたことを思い返さずにいられないはずです。*3

出典:アニメ「ラブライブ!スーパースター!!」第1話
かのん
大好きなんだけどね。きっと才能ないんだよ
だからもう歌はおしまい
可可
好きなことを頑張ることに、おしまいなんて、あるんですか

かのんちゃんは階段を上りきるあと一歩のところで足を止めるんですよね。この画は「大人になる」過程を表しているんでしょうか。

夢や好きなことを追いかけるのは素晴らしいことです。でもそれは理想論であって、ずっと続けてはいられない。失敗続きならいつかは妥協したり諦めたりすることも必要になるでしょう。やりたい事とできる事との折り合い*4 をつける術は大人になるための必要条件です。「かしこさ」を身につけなくちゃいけない。

でも彼女はまだ高校 1 年生です。その階段を上るには早すぎる。

まあ、彼女がどんな思いで歌ってきたのか想像しかできない以上、滅多な押し付けはするものじゃありませんが、それでも若い子にはもっとガムシャラであって欲しいと願います。この場合においては階段の下にいる可可が正解だと私は言いたいです。

できないものはできない

可可
歌が好きなのに?
かのん
好き、なのにね……

でも、できないものはできない。食い下がる可可に説明するかのんちゃんの表情は寂しいです。

恋ちゃんとその母親・学校創立者のことを知って。帰り道に可可の発声練習*5 を聞いて。お母さんとちぃちゃんの話をして。そのあと自室にてギターに伸びかけた手が、ためらい、結局力を失うのもまた寂しいですね。

出典:アニメ「ラブライブ!スーパースター!!」第1話

好きなことを頑張っている人がいるのをすぐ隣に見れば、自分だって歌をやりたくなる。だって歌は大好きだから。でもダメな結果を繰り返していて次も失敗に終わると予想できるとなると、もう試してみたくもなくなります。この葛藤は見ていて心苦しいです。

吐き出す

可可
かのんさんは歌が好きです。歌が好きな人を心から応援してくれます
可可はそんな人とスクールアイドルをしたい
かのん
何より自分にがっかりする
そういうのもう嫌なの

可可に再度迫られるも、突っぱねてしまうかのん。

ここまでずっと「私には無理だ」と拗ねるばかりでしたが、ここでやっと「がっかり」の言葉が出てきたように思います。がっかりとは失望のこと。失望するのは期待していたからこそ。

自分に期待していたから、うまくいかないのが悔しいんですよね。やっとそれが吐き出せたんじゃないでしょうか。

出典:アニメ「ラブライブ!スーパースター!!」第1話

済んでしまった失敗は今更どうにもなりません。ですが、それでどうしても嫌になって別の道を進むにしても、諦めきれなくてもう一度だけでもと踏ん張るにしても、今の気持ちを整理できていなければどっちにも進めない。

彼女は「最後にする」と言っておきながら結局宙ぶらりんなままでした。恋ちゃんに「あなたはどうなの」と問われたとき、答えが返せなかったのは多分そういうことなんだと思います。

自分にがっかりする、と。そう吐き出してやっと彼女は前に進むための準備が整ったのでしょう。

そしてそれは、できたばかりの友人のおかげでしょうね。

可可はかのんちゃんと出会ったばかりで、いい意味で彼女のことを何も知りません。知っているのは、彼女の歌がとても素晴らしいことと、歌が大好きな気持ちだけ。だから話に聞いたくらいでは彼女が歌わないというのが納得しきれない。失敗を近くで見続けてきただろう千砂都ちゃんや家族とはそこが違うんですよね。

出典:アニメ「ラブライブ!スーパースター!!」第1話

納得できないから可可は強く出ることができる。「もう一度だけ始めてくれませんか」と言いたくなる。だって彼女の歌が好きなことだけは見ていて分かるんだから。

その圧力があったから、かのんちゃんは感情を決壊させられたんじゃないかなあ。

かのんの夢

いいの?

さて一度は可可に背を向けたかのんちゃんですが、「できないからもういいや」と逃げていた今までの彼女とは違います。失望するのはもう嫌だと言ったのは本当でも、その自分に期待してくれる人がまだいるのには気づいている。

そうですね。ここで冒頭に出てきた彼女の夢が効いてくるように思います。

かのん
夢は新設された結ヶ丘女子高等学校の音楽科に進み、歌でみんなを笑顔にすることです

エピソードの頭では受験失敗が大きく描かれ、夢は潰えたような印象を与えていました。ですが前段部分の音楽科は手段であって夢そのものではありませんでしたね。彼女の夢は「歌でみんなを笑顔にすること」。なんなら歌さえも手段だと言えます。たまたま彼女が大好きで得意でもあっただけ、ですよね。本質は「(自分の技能などで)他の人を喜ばせること」でしょうか。

かのん
本当にこのままでいいの?

そんな彼女が、いくら自分に失望していたからといっても、試しもしないで他人からの期待を蹴るのは難しいでしょう。やる前に失望させるなんて、そんなことできません。

ここもやはり相手が可可だったのが大きいと思います。何も知らないはずなのに自分の歌が良いと言ってくれる相手ですよ。あなたの歌は素晴らしい。あなたは歌が大好きだ。だからそんなあなたと一緒にやりたい。他の何でもないそれだけを一貫して訴え続けてくれてました。自分の好きなものにかかる純粋な期待は無視できるものではありません。

出典:アニメ「ラブライブ!スーパースター!!」第1話

思えば登校時に会った元同級生は「かのんちゃんの歌、好きだったから」と、その期待が過去のものとして描写されていたんですよね。周りのみんなは私にがっかりして、もう期待なんてしてない。そう思わせる表現も残酷だと思ったものです。

唯一ちぃちゃんだけは「私はかのんちゃんの歌、聞いていたいけどな」と言ってくれていましたね。ただ自分のことをずっとよく知る相手の言葉では乗るには弱かったでしょうか。今までだって期待はされてきていたはずで、その度に「がっかり」させちゃってるとも感じている*6 はずですから。

かのんちゃんに「もう一度」を考えさせるには、知らない人の力が必要だったのでしょう。

やっぱり私、歌が好きだ!

ここではさらにもう一つ。冒頭でも出てきたヘッドホンがしごとをしていました。外のノイズをカットするための道具は、可可の言葉を遮断し、一度は彼女を拒絶するために使われます。

出典:アニメ「ラブライブ!スーパースター!!」第1話

ですがそうやって外界を排除して、かのんちゃんがこもろうとする先はヘッドホンの中なわけです。自分自身の他には音楽*7 があるだけの世界。だから自分の声に向き合わざるをえない。音楽との関係について考えざるをえないんです。

失敗を受け入れた今、考え直す。自分が本当に何をしたいのか。

それで出てきた答えがやっぱり歌なんですよね。歌で慰められる。元気になれる。歌があればどこまでも行ける。登校の道すがら自分の世界にひたり、気持ちよさそうに歌っていた姿も思い出されます。

いつだって歌っていたい

かのんちゃんはいつだって歌と共にありました。失敗に拗ねていじけている姿ばかり描かれていましたけど、歌が好きだという気持ちだけは一切ぶれていなかった。だからこそ可可は再三誘っていたんです。

そしてその可可の思いがかのんちゃんに、自分にとっての歌とは何かを今一度考えさせた。

オープニングカットの気持ちよさそうな彼女の歌声は、エピソードを通してたしかに響き続けていていたように思います。

出典:アニメ「ラブライブ!スーパースター!!」第1話

さて、最後に一つ。

はたして彼女は歌えたわけですが――。

かのん
新しいこと始めるのもいいかなって

ちぃちゃんに言っていたこのセリフは、あのとき「歌はおしまいにして」が言外についていたはずでした。自分の大好きを諦めるためのものだったはずです。しかし今改めて眺め直してみると、さらに違う意味に取れるんですよね。これこそが物語の素敵なところだと思うのです。

新しい学校。新しい生活。新しい友達。新しいことづくめの環境なら。

歌で新しいこと始めるのもいいですよね!

出典:アニメ「ラブライブ!スーパースター!!」第1話挿入歌「未来予報ハレルヤ!」MVより 可可のノート

*1:やり取りから読めるのは、「歌」だけを取り上げるなら、かのんちゃんの方が実力が上らしいということです。2 人が受かっているのだから、歌えてさえいれば彼女も合格しているはず。着ていたはずの制服なんですよね。

*2:無印やサンシャインでは、アイドルに憧れてメンバーを集めるのは主人公格の穂乃果や千歌ちゃんでした。今度のお話ではその役は可可が担うんですね。リーダーになるはずのかのんちゃんが誘われる側なのは、切り口に変化があって嬉しいです。

*3:もちろん、恋ちゃんが事情を知っていたはずはありませんし、知っていたとしても貶める意図があったとも思えません。受け取り手側の問題ですね。

*4:そこに「期待される事」も加わると思います。

*5:声だけで判断がつけられなかったので字幕の色を見ました。可可で合ってますか?

*6:実際に失望していたかは分かりません。「失望させている」はかのんちゃんが感じることですね。

*7:この場面では音楽をかけてなかったようですが。