嫌われる勇気 <ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会 第 8 話 「しずく、モノクローム」感想>

周りを窺って自分を偽ってきたしずくちゃんのお話は、人によってはかなり刺さったんじゃないでしょうか。私は結構自分勝手に生きてきているので、その点ではあまりだったのですけど――。

やりたいことが分かっていて、それを出来ない自分が居て。そこから目を逸らし続けていたしずくちゃんの姿は、クるものがありました。自分に正直にって、簡単なようでいて難しいですよね。

はじまりはじまり

まず劇中劇を読み解くのが初めてでよく分かってないのですが、劇中の少女としずくちゃんは同一のものとして考えていいのですよね。

ある学園のある同好会に、一人の少女がいました。彼女の夢は一番のスクールアイドルになること。そして、たくさんの人にときめきを届けること。あなたの理想のヒロインになりたいんです。

こんな感じかな。

隠す

しずくちゃんは自身をさらけ出すことに怯え、演じることで本当の自分を隠して生きてきたと言います。ポイントは「嫌われたくない」でしょうか。

私は、愛されるスクールアイドルを、演じたいと思っています。

冒頭のインタビューではそれっぽく答えてましたけど、なんだか空々しく聞こえますね。「あなたの理想の」なら、そこに具体性は表されていなくとも、何かしら主観的なビジョンがありそうですが、「愛される」や「皆さんにとっての」と言ってしまうと、受け身でしかなさそう。そして「なりたい」と「演じたい/なりきる」はやっぱり違います。夢を見せるべきファンに向かって「演じます」は無いんじゃないでしょうか。

自らの魅力で勝負する場所でこれでは、確かに弱いですね。周りに嫌われないようにと偽りの自分を演じていて、当たり障りのない言葉しか出てこないのでは、いけません。

出典:アニメ「ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会」第8話

私が歌に込めるのは、喜びと、感動と、少しの熱狂。

喜びも、感動も、熱狂も、全て自分の内から出るものです。他所から借りてきた仮面をかぶっていては、出てくるはずがありませんね。歌声なんて届くはずがないんです。

しずくちゃんが喜びや感動を得られるもの、熱狂できるものといったら、まず演技やお話、そしてそれにまつわるものでしょうか。ただ、話中で少し触れられていた古い映画や小説についてですが、その程度の話さえも、今まで友人たちにしてなかったことに驚きです。璃奈ちゃんは知らなかったようですし、かすみんに話す時も初めての話題のような切り出し方をしていましたものね。

小さい頃から好きだというなら、あれこれ作品を見ているはずです。気に入っているものや、人に語りたいものだってたくさんあるはず。でも演劇が好き、演じることが好きとは表明しているくせに、そういったちょっとでも深いところの話は、あまり出していないんですね。

引き合いに出していいものか分かりませんが、たとえばせつ菜なら、自分の大好きなものについていくらでも語ってくれそうです。好き嫌いは人それぞれぞれですから、相手によっては全く響かないでしょうけど、共感できる人にはしっかり届くはず。また、たとえその内容には興味がなくとも、人が熱く語る姿は好ましく映ったりするものです。気持ちを表現するとは、たとえばそういうことだと思うんです。

しかし一方で、好きなものって自分の根本に関わってくるものだったりもします。もし否定されでもしたら、自らをも否定さているように感じるかも。小さい頃のしずくちゃんがそれを怖がって、隠すようになったのも、仕方のないことなのかもしれません。

そうしてしずくちゃんは自分を偽って、当たり障りのないことだけ出すようにしてきた。嫌われないような振る舞いだけをしてきた。

確かに楽ですよね。自分の内に波風が立つことがないですし、それが保証されてると分かっていれば、無駄に構える必要もありません。そうやって、これまで生きてきたんですね。

矛盾

演じているときが、一番堂々としていられるの。

役を演じる時には、求められているものが(一見)分かりやすいから、それをやってさえいれば褒められる。嫌われない。確かにそうなんですけど……。純粋に好きだったはずの演劇が、手軽に肯定感を得るための手段に成り下がっているのは、寂しいです。

そして、多分スクールアイドルも同じようなスタンスでやっているから、ライバル(同じ 1 年生の遥ちゃん)がずっと上のステージにいると聞いても、なんとも思わなかったりするんでしょうか。(第 7 話)

ですが、どうもそればかりではないようです。

今回降板させられても、そうですかと簡単に引き下がるのではなく、もう一度チャンスが欲しいと食い下がっていました。純粋に演りたいんでしょうね。そして以前のかすみんの講義(第 4 話)でも、スクールアイドルには 自分の気持ちを表現すること が必要だとも答えていました。そう、「歌いたい」気持ちはちゃんとある。

ふむ。歌いたいのに、自分はさらけ出さない。

しずくちゃんはその矛盾から目を逸らして生きてきたようですね。やりたいのにやらないのは、自身に対する裏切りに他なりません。そしてそんな自分を好きになれるはずがない。だから見ないふりをしてきた。

彼女はなまじ演技力があるために、問題を抱えていても「いつも通り」でいられてしまうんでしょう。それこそ自分自身でも分からなくなってしまうくらい。今まで悩んでいるような素振りが見えなかったのは、その辺りが原因でしょうか。

ところが、役を降ろされたことで、ずっと見ぬふりをし続けてきた矛盾が顕在しました。今では、嫌いな自分が否応無しに目に入ってきます。

(ところで、劇中で矛盾を指摘していたのは黒の少女でしたが、演じていた演劇部部長が、現実世界でもしずくちゃんにそれを突きつけるのは、面白い構造ですね)

引っ張り上げてくれる人

答えが出ないから無視し続けていたものを、急に目の前に持ってこられたからって、解決できるはずもありません。やることは分かっている。でもそれはできない。考えが同じところを巡るだけで、どこにも進まない。

今まで無視してきた分も、どっとのしかかって来るでしょうし、自己嫌悪感はより増しているんじゃないかと思います。

そしてそんな時でさえ、周りにはいつも通りを演じようとしてしまうのは、問題の根が深すぎますね。そのままでは絶対に抜け出せないのですから。

台本がそこにあるのに、ぼんやりと、おざなりに基礎練をする姿は痛々しかった……。

出典:アニメ「ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会」第8話

私としず子の仲でしょ!

その手を取って立たせてくれたかすみちゃん、大きく出てましたよね。ここでは二人はまだ親友と呼べるような間柄ではなかったはずです。かすみんとしては仲良くしたかったでしょうが、ずっと自分を嘘で固め続けていたしずくちゃんが、その内にまで他人を入りこませていたとは思えません。心を開いてくれない相手の懐に飛び込むために、かすみん、かなり無茶をしたなあ。

しずくちゃんが立ち上がれた理由は

  • 自分をさらけ出して、不安ながらもやっている例を示してもらった
  • 加えて、自分をさらけ出しても大丈夫だと証明してもらった

あたりでしょうが、2 番めは

  • 自分でさえ嫌っていた桜坂しずくという人間を、肯定してくれる人が居た(それに気付けた)

という面もあるのかなと思います。

あなたはどうしたいのか

以前『嫌われる勇気』という本がベストセラーになってましたね。骨子の一つが、他人は変えることができない、だったと記憶してます。あなたがしたことに対し、他人が何を考えようとそれはその人の問題であって、あなたが関与できることではない。だから他人にどう思われるかを気に病むのは無駄である。

それよりも大事なのは、あなたはどうしたいのか*1

最初見た時、黒の少女は、自らを叱咤する強い自分を担っているんだと思ったんです。自分の矛盾を指摘して、正す役割なのだと。でも、それにしては仮面を被っているのが不思議だったんですよね。顔が見えないのは、本音を隠しているからじゃないのかと思えて。

そしたら、やっぱり隠していた言葉が出てきましたね。

嫌われるかもしれない。

何のことはない、怯えていたのは黒い少女も一緒だった。そういうことでいいんですよね?

怖いけれど、それでも。

それでも歌いたい。

その内なる必死のおもいが、黒の少女の形をとって語りかけていた。白の少女は頑なに黒の少女を見ようとはしませんでしたが、最後の最後で向き合い、その仮面の奥にある、自分の本音に気付いた。

ここで黒の少女に向き合った後、白の少女自らの手で体の位置が入れ替わり、発言の強さもスイッチしているのは興味深い表現だと思います。*2

出典:アニメ「ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会」第8話

でも歌いたい。その気持ちだけはきっと真実。

これが私。逃れようのない、本当の私。

いくら嫌いでも自分に替えはききません。ずっと付き合っていかなくてはいけないのです。だから心の声に、いつかは向き合う必要がある。

今まではその心の声から目を背けてきた。

でも、その本当のおもいから逃げることを止めました。自分に正しく向かい合えるようになった今、しずくちゃんは、偽りの演技ではなく、自分の内から出る、自分を表現するための演技を求めていくのでしょうね。

窓を開ける

A パート冒頭でかすみんが偶然通りかかったとき、しずくちゃんはセリフの練習をしていました。(本記事、1 番目の画像)でも、外に向けて演技をしていたのに、窓は閉まったままです。それでは外まで "歌声" が届くわけがありませんね。

窓を開ければ、ときには雨にさらされることもあるかもしれません。でも、歌声を届けたいならまずそこから始めないと、ね。

しずくちゃん、外の風の心地はいかがですか?

出典:アニメ「ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会」第8話

*1:私の解釈ですし、なにぶん読んでから時間も経ってしまっているので、間違っているかもしれません。

*2:画面の左右で対立構造を作る場合、一般に右側が優位だという話を最近知りました。さらに、ここでは抱きかかえているので、上下関係も出来てますね。